
「……ねぇ、最初に会った時も気になってたんだけど、
 なにかと自分の脇腹をさすってるわね。
 どうしたの?内臓疾患でも患ってるの?」
「ふっ。
 数年前の傷がまだ完全に癒えていないだけだ。
 長寿であるがゆえに治癒も遅い。この肉体の最大の欠点だ。」
「レインめ、憶えておれ。いつか復讐を――。」
「え?」
「いや、気にすることはない。
 こっちの話だ。
 それより製作はどうだ?進んでいるか?」
「ええ、順調よ。
 もうすぐ大体の型どりは終わるから、
 あとは少しずつ形を整えて、紋様を刻んでいくだけ。」
「ふむ。
 思ったより早く作業が進んでいるようだな。
 素材を宙に浮かせるという特殊な技法が故か。」
「パパなら、もっと早く作れるのに……。」
「バザルトか――。
 何年も家に帰っていないというあの話、
 少々気になってな。」
「私なりに足取りを調べてみたのだが、
 どうやら本当にこの周辺では目撃情報すらないようだな。
 だが死亡に繋がる情報もない。まさに行方不明だ。」
「……そう。」
「若き日のバザルト氏を賞賛する者はいても、
 批判するものはいなかった。
 よほど人徳があったのだな。」
「……あの頃は、あれで幸せだったわ。
 この父さんのアトリエで、双子の弟といつも一緒に遊んでた。
 その弟達とも、もう長いこと音信すらないけれど――。」
「アルゲンタイン――いや、今の国名はカイザリアか。
 かの地にてネルクスの塔の設計技師を担当した後、
 今はシルバニア公国に亡命し、城壁を設計監修しているはずだ。」
「……え? 知ってるの、うちの双子の弟達を!?」
「少し前に、いろいろとな。
 名前が鉱石系だったのは記憶しているのだが。
 確か……ジェイドと……。」
「ネフライトよ。」
「ふっ、まさにその二人だ。ちゃんと生きている。」
「そう――無事ならいいわ。
 あの二人のことだから、
 どこに行ってものらりくらりと暮らしていけるでしょ。」
「のらりくらりか……言い得ているかもな。」
「……そう、生きてるんだ。よかった。」
「――ふむ。
 予め姉弟だと知っていれば、
 言づての一つでも預かってきたのだが。」
「いーえ。生きてることが分かっただけでも充分よ。」
「そうか。
 ……あまり長居して邪魔しても悪いな。
 また来る。」
「……ありがとう。」
「ふっ。何がだ?」
「いーえ、なんでもないわ。」