Forbidden Palace Library / 『星降らす銀の天蓋』 /

■ メルセデス市
□ リリエンタール邸

メルフィア 「……ねぇ、最初に会った時も気になってたんだけど、
 なにかと自分の脇腹をさすってるわね。
 どうしたの?内臓疾患でも患ってるの?」

セディ 「ふっ。
 数年前の傷がまだ完全に癒えていないだけだ。
 長寿であるがゆえに治癒も遅い。この肉体の最大の欠点だ。」

セディ 「レインめ、憶えておれ。いつか復讐を――。」

メルフィア 「え?」

セディ 「いや、気にすることはない。
 こっちの話だ。
 それより製作はどうだ?進んでいるか?」

メルフィア 「ええ、順調よ。
 もうすぐ大体の型どりは終わるから、
 あとは少しずつ形を整えて、紋様を刻んでいくだけ。」

セディ 「ふむ。
 思ったより早く作業が進んでいるようだな。
 素材を宙に浮かせるという特殊な技法が故か。」

メルフィア 「パパなら、もっと早く作れるのに……。」

セディ 「バザルトか――。
 何年も家に帰っていないというあの話、
 少々気になってな。」

セディ 「私なりに足取りを調べてみたのだが、
 どうやら本当にこの周辺では目撃情報すらないようだな。
 だが死亡に繋がる情報もない。まさに行方不明だ。」

メルフィア 「……そう。」

セディ 「若き日のバザルト氏を賞賛する者はいても、
 批判するものはいなかった。
 よほど人徳があったのだな。」

メルフィア 「……あの頃は、あれで幸せだったわ。
 この父さんのアトリエで、双子の弟といつも一緒に遊んでた。
 その弟達とも、もう長いこと音信すらないけれど――。」

セディ 「アルゲンタイン――いや、今の国名はカイザリアか。
 かの地にてネルクスの塔の設計技師を担当した後、
 今はシルバニア公国に亡命し、城壁を設計監修しているはずだ。」

メルフィア 「……え? 知ってるの、うちの双子の弟達を!?」

セディ 「少し前に、いろいろとな。
 名前が鉱石系だったのは記憶しているのだが。
 確か……ジェイドと……。」

メルフィア 「ネフライトよ。」

セディ 「ふっ、まさにその二人だ。ちゃんと生きている。」

メルフィア 「そう――無事ならいいわ。
 あの二人のことだから、
 どこに行ってものらりくらりと暮らしていけるでしょ。」

セディ 「のらりくらりか……言い得ているかもな。」

メルフィア 「……そう、生きてるんだ。よかった。」

セディ 「――ふむ。
 予め姉弟だと知っていれば、
 言づての一つでも預かってきたのだが。」

メルフィア 「いーえ。生きてることが分かっただけでも充分よ。」

セディ 「そうか。
 ……あまり長居して邪魔しても悪いな。
 また来る。」

メルフィア 「……ありがとう。」

セディ 「ふっ。何がだ?」

メルフィア 「いーえ、なんでもないわ。」



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