
■ 法都エルメキア
□ 法院密室
「足りない? 何が足りないというのです?」
「『天蓋』を発動させるには、肝心の中枢部が完全でない。」
「どうして今まで誰も気づかなかった!」
「設計図を書いた、かの卿は既にこの国にはおらぬ。
ただでさえ難解どころか複雑怪奇な魔導方程式。
理解しようにも、魔導に有望な学者達は――。」
「この国には殆ど残っていない。」
「……ネルクスの塔。そう、アルゲンタインだ。
全ては旧アルゲンタイン帝国の仕業だ。
奴らが我が国から知恵持つ者らを連れ去らなければ!」
「しかし、ですぞ。
アルゲンタインは滅びたのに学者達は戻ってこない。
これはまぎれもない事実ですぞ。」
「だからこそ、
かの法案を通して威厳を取り戻すのです。
我らがエル・メイキアに!」
「法の名の下に於いて、執行す。
エクセキューシェ・エル・メイキア。
随分と古い言い回しを。」
「その一言(いちげん)が、かつてこの地に於いて
恐怖の代名詞であったことをお忘れか。
この頭に載せしルゥヘルム(法冠)と共に。」
「しかし人は法によってのみ理性を保ちうるのもまた事実。
なればそれを導くのが我ら法員の役目。
そうであろう?」
「法の執行には力が必要。
この紛れもない手順は、
建国の時より自明の理。」
「そうとも。そのための『天蓋』なのだから……。」
▼次へ
▽目次に戻る
OWNER
Copyright(c)1997-2006 FUBUKI KOGARASHI (木枯 吹雪) fubuki@kogarashi.jp
日本語でどうぞ。