「――重力を利用すれば、
人は月にも行けるってパパは言ってた。
だけど、パパの世界ではできなかったんだって。」
「月に行く、だと?
……バザルトはそんな科学的な考えをもっていたのか。
その意見には肯定できないな。」
「あら、どうして?」
「……ふむ、貴様なら良いか。少しだけ教えてやろう。
かつて、この地上が大戦争の舞台となったように、
あの月面もまた戦場だったのだ。」
「え、じゃあこの世界の昔の人は月へ到達してたの!?」
「この世界……? まぁ、そういうことになる。
私自身はその間は凍結させられていたがゆえに、
直接その時代をこの目で見たわけではないが……。」
「……凍結?」
「後から聞いた話では、
月面の一部を谷に変えるほどの激戦が繰り広げられたそうだが、
最終的には人工的な月震により、両軍とも壊滅したとの事だ。」
「ねえ、ちょっと待って。
理解できない単語が多すぎるんだけど。
月面で激戦? 月震って何?」
「かつての月面には、冥王星近隣まで亜光速移動するための
星間カタパルトが建てられていた。
つまりはその装置の奪い合いだ。」
「?」
「――人類はあと少しで、
アルファ・ケンタウリ星系に到達しようとしていた。
それも科学探査などではなく、軍事目的で。」
「???」
「地球上で枯渇した物資を、
他の星系から取り寄せようとしていたのだ。
その為にアインシュタイン計画は立案された。」
「もっともそれは、帰らぬ旅路となったようだがな。
空間転移をする際の中継地点が量子負荷に耐えられなかったか、
あるいは人工的な作為によりわざと失敗させられたか。」
「どちらにしろ、ゲートもろとも
冥王星の双月であるシャロンは砕け散った。
いくつかの衛星と小惑星を巻き添えにして。」
「いまいち話がよく分からない所が多いんだけど……
ラファエル王国の王都にあったっていう
『魔導原石』は……もしかして。」
「そう。あれは他ならぬ衛星シャロンの破片だ。
空間転移によって地上に落ちてきた欠片の一つ。
そこからあの首都の名前がつけられた。」
「王都、シャロン……。」
「戦争など、終わってしまえばどちらが正しかったかなど無意味になる。
ただ、どちらが勝ったか。あるいは、どちらとも負けたか。
結果として残るのは、どれだけの犠牲が出たかだ。」
「……いつの時代も、人間って愚かね。」
「全員が優れていたらとうの昔に神へと進化している。
それができないから人類は人類なのだ。
下手に己惚れてエンディルのようになることに比べれば幾分マシだ。」
「『神』? 珍しい言葉を聞いたわ。」
「ふっ、そうか、そうだった。
その単語は失わせていたのだったな、すまぬ。
忘れてくれ。」
「いーえ。パパ以外の口から聞いたの初めてだったから。」
「!
パパだと?
待て、バザルト氏はその言葉をどこで知って――」
「――メルフィア様。」