Forbidden Palace Library / 『星降らす銀の天蓋』 /

■ メルセデス市
□ リリエンタール邸

メルフィア 「あら、エーデル。
 別にお茶は出さなくていいわ、
 セディだもの。」

セディ 「待て貴様、それはどういう意味だ。」

エーデル 「いえ、水も出すつもりはありません。」

セディ 「ふっ。貴様もだ。一体どういう神経をしているのか。」

エーデル 「そのことではなく、法院からお嬢様宛に速達の手紙が。」

メルフィア 「法院から?私に速達で?
 ……どうせ面倒事でしょ、あとで読むわ。
 そこにおいといて。」

エーデル 「はっ。」

セディ 「ふっ、法院か。
 イングリッドが今の現状を見たら、
 果たしてどんな顔するか。」

エーデル 「!!!
 みだりにその名を口に出すことは罷り成りません!
 法の中の法、礼法を創始せし者の偉大な御名を――!」

メルフィア 「ねぇ、そのイングリッドって、誰?」

エーデル 「……メルフィア様、ご存じないので?」

メルフィア 「私、学校行かないで全部パパから習ってたもの。」

セディ 「Ingrid=Klingenstierna。かなり長い名前だが、元は北欧系の人間だ。
 エル・メイキア、つまりこのエルメキアの建国者ということになる。
 存命時には『法と天秤の魔女』とか呼ばれていたがな。」

メルフィア 「ひょっとして、それでエルメキア国旗は天秤の紋章なの?」

セディ 「そうだ。極度の潔癖性を持った女だったが、
 その分自らを律することにもうるさかった。
 いや、あれはうるさいなんてもんじゃない。やかましいの部類だ。」

セディ 「だが、決して偽りを行うことはなかった。
 産まれてから本当に一度たりとも嘘を付いたことが
 ないのではないかと思えるぐらいにな。」

メルフィア 「まるで、セディと正反対ね。」

セディ 「……メルフィア、今すぐそこに正座しろ。説教してくれる。」



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