「あら、エーデル。
別にお茶は出さなくていいわ、
セディだもの。」
「待て貴様、それはどういう意味だ。」
「いえ、水も出すつもりはありません。」
「ふっ。貴様もだ。一体どういう神経をしているのか。」
「そのことではなく、法院からお嬢様宛に速達の手紙が。」
「法院から?私に速達で?
……どうせ面倒事でしょ、あとで読むわ。
そこにおいといて。」
「はっ。」
「ふっ、法院か。
イングリッドが今の現状を見たら、
果たしてどんな顔するか。」
「!!!
みだりにその名を口に出すことは罷り成りません!
法の中の法、礼法を創始せし者の偉大な御名を――!」
「ねぇ、そのイングリッドって、誰?」
「……メルフィア様、ご存じないので?」
「私、学校行かないで全部パパから習ってたもの。」
「Ingrid=Klingenstierna。かなり長い名前だが、元は北欧系の人間だ。
エル・メイキア、つまりこのエルメキアの建国者ということになる。
存命時には『法と天秤の魔女』とか呼ばれていたがな。」
「ひょっとして、それでエルメキア国旗は天秤の紋章なの?」
「そうだ。極度の潔癖性を持った女だったが、
その分自らを律することにもうるさかった。
いや、あれはうるさいなんてもんじゃない。やかましいの部類だ。」
「だが、決して偽りを行うことはなかった。
産まれてから本当に一度たりとも嘘を付いたことが
ないのではないかと思えるぐらいにな。」
「まるで、セディと正反対ね。」
「……メルフィア、今すぐそこに正座しろ。説教してくれる。」