「――何も、聞かない方が良いか?」
「ごめん。
あたしの勝手かもしれないけど、
しばらくこうしてて。」
「ふっ。いいだろう。
……その間に少しだけ、
また昔の話をしてやろう。」
「…………。」
「かつて、此の地で一つの戦いがあった。」
「……『ユーベルの迷宮戦(Maze Avenge)』。
近くも遠くもない過去、まだエンディルがこの世界に現れる前。
人類は、別の敵と戦っていた。」
「……別の、敵?」
「ディオキス。いや正確にはディオキシリボ核酸突然変異体。
それはもう一つのヒト科ヒト、人類の亜種。
だが、それは決して相容れることの出来ない存在。」
「どうして?」
「今はまだ多くは語れないが――
人類と最も近くて最も遠い存在であった彼らは、
進化の方向が我々とは大きく掛け離れていたと言うしかない。」
「…………。」
「奴らの侵攻をくい止めるために作られたのが、この大迷宮だ。
かつては地上に存在、
いや、むしろここが地上だったのだがな。」
「やがて……長い長い戦が終わり。
迷宮は地下へと沈められ、その上に新しい町が築かれた。
その町はいつしか『ユーベル』と呼ばれるようになる。」
「…………。」
「ユーベルは長い間、混沌と退廃に満ちていた。
たった一人の裁判官が赴任するまでは。
あの潔癖性が、たった8年でこの町を浄化した。」
「それが仮に強権発動による独裁の一歩手前だったとしても、
殺人・強盗・強姦、重犯罪者どもの巣窟だったこの町に
平和と秩序をもたらせたその功績は大きい。」
「だから、彼女は平和な国になることを願い
こう名をつけた。
エル・メイキア――偉大なる秩序、と。」
「……それが、エルメキアの語源ってわけね。」
「僅か200年前この地域が大陸で
最も治安の悪い無法地帯だったなど、
今や誰が信じられようか。」
「それを是正したのが、礼儀と法による秩序……。」
「ふっ。そういうことだ。
……ふむ、少しは落ち着いたようだな。
本題に戻るとしよう。」
「まず一つ、伝えなければならない話がある。」
「なに?」