Forbidden Palace Library / 『星降らす銀の天蓋』 /

■ メルセデス市
□ リリエンタール邸跡


ギィィィィっ

セディ 「なるほど、床下の隠し収納庫か。
 だが、空っぽではないか。
 やはり持ち去られた後か……。」

メルフィア 「と、思うでしょ。はい、コレ。」

セディ 「ん? シャベルだと?」

メルフィア 「収納庫の更に下に埋めたのよ。はい、掘って。」

セディ 「……待て、私が掘るのか!?」

メルフィア 「そうよ。力作業は男の仕事よ?」

セディ 「……何故私がこのような力仕事を。」

メルフィア 「ぶつぶつ言わない。立ってる者は親でも使うの。
 あ、もうちょっと右。
 そう、そこ。」


ざくっ ざくざくっ ざくっ


コツンっ!

セディ 「……っ!」

メルフィア 「丁度そのあたりよ、気を付けて。
 ゆっくり持ち上げて。
 そう、そのまま上に――――。」

セディ 「ほう。これは……。」

メルフィア 「よかった、無事みたい。
 念のため出かける前にここに埋めておいたの。
 隠し収納庫の下にまた隠してるなんて普通は考えないでしょう?」

セディ 「ふっ。でかしたぞ、メルフィア。」

メルフィア 「いーえ。」


すっ

セディ 「?」

メルフィア 「だけど、ちょっと待って。」

セディ 「ふっ、なんだ?」

メルフィア 「この剣を貴方に引き渡す前に、
 聞きたいことがあるの。
 ――前に言ってた話は、本気?」

セディ 「???」

メルフィア 「一人で勝てなくても、二人なら勝てるかもって話。
 私と、貴方で、議会に。
 そう言ったのは貴方よ、セディ。」

セディ 「……法院に喧嘩を売るつもりか?」

メルフィア 「率直に答えて。あれは本気で言っていたの?」

セディ 「だとすれば、貴様はどうする?」

メルフィア 「残りの報酬はいらない、その代わりに貴方の手を貸して。」

セディ 「……ほう。」

メルフィア 「もう、守るべきものもなければ帰る場所もない。
 私から全てを奪い取ったあいつらに、
 一矢報いてやりたいのよ。」

セディ 「…………。」

メルフィア 「なにより、パパとの大事な思い出を奴らは奪った。
 それが許せないのよ。
 私の全てを否定した奴らを。」

セディ 「……なるほどな。」

メルフィア 「それでどうなの、セディ? 答えて。」

セディ 「……今のこの国は少々危険すぎる。
 それは感じていたところだ。
 放置してアルゲンタインの二の舞になるのは勘弁だ。」

メルフィア 「!」

セディ 「よかろう。
 私も丁度似たようなことを考えていたところだ。
 法院に乗り込むぞ。」

メルフィア 「……ありがとう。」

セディ 「ふっ。たまたま思惑が一致しただけだ。有り難く思え。」

メルフィア 「当然、借りはきっちり返させてもらうわ。
 どうせもうこの国に未練はないもの、
 やるだけの事はやってやるわ。」

セディ 「ふっ、よく言った。早速準備にかかるぞ。」

メルフィア 「――ありがとう。
 そして、さようなら。
 私と家族の家……。」



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