『いつの日か、きっと』
「では所持品のチェックを致しますので
お荷物をお預かり致します。
しばらくそのままでお待ち下さい。」
「あいよ。」
「で、これからどうする、レィディ」
「どうするこうするも、
アタイらが護衛していた輸送隊が逃げちまった以上、
またどこかに雇われるしかないだろ?」
「あー、思い出しただけでムカつくよなー。
行き先にエンディルが襲撃してくるって噂が流れただけで、
馬車を方向転換させて逃げやがって。」
「過ぎたことを言っても仕方ないだろ? 事実だったんだし。」
「……レィディ、お前いつも冷静だよな。」
「グリフィス、アンタがいつも熱血しすぎているんだよ。」
「わかったよ、落ち着くよ。
……しかし奴らも神出鬼没だよな。
攻めてきたかと思えば突然いなくなったり。」
「おおかた、都市攻略が終わるたびに一度自分たちの世界に帰っているんだろ。」
「ってことは、世界間移動ってそんな容易なモノなのか?」
「……なるほど、面白い所に目をつけたな、グリフィス。」
「だろ?だろ?な、姉御?」
「だからその姉御って呼び名やめろよ。」
「わかった、レィディ。な、名案だろ?俺ってすばらしい!」
「その調子に乗るところさえなければ、な。」
「……わかったよ。
問題は奴らがどうやって世界間を移動しているのかということだよな。
奴らのリーダーか何かが魔導でも使っているのか?」
「魔導、ねぇ……」
「不満そうだな、レィディ」
「ああ。奴らが魔導を使っているっていう話は聞かないからな。」
「……そう言われればそうだな……じゃあどうやって?」
「だからアタイに聞くなよ。エンディルに聞けってば。」
「レィディ、お前いつも冷静すぎ。」
「だからアンタが熱血しすぎているんだ、グリフィス。
……そうだ、グリフィス。
話は変わるが、さっきちょいと面白い話を聞いたんだ。」
「面白い話?」
「ああ。
この近くにシルバニアの王立軍が来ているっていう話だ。
それも1個師団まるごと。」
「この近く……ってこたぁ、バレンタイン港の守備を固めるつもりか?」
「その可能性が高そうだとアタイも踏んでいるんだ。
だけどどうして王立軍が、次のエンディル出現地が
このバレンタインだと考えたのか……ん?まてよ。」
「どうした?」
「地図だ、ちょっと地図を出してくれ。」
「地図?いましがた検問にバッグごと預けちまったよ。」
「使えない奴だな。」
「いきなりどうして地図がいるんだ?」
「……奴らが今まで侵攻してきた町をチェックしていくと、
どうもほぼ一直線に並ぶような気がしてならないんだ。
街道沿いの順番に町を一つずつ破壊してきてるんじゃないかと。」
「つまり、
このまま行けば次に襲撃を受けるのは、
やはりここ、バレンタイン港ということか?」
「恐らくシルバニアの連中もそれを察したんじゃないか?
だとすれば、王立軍が駐留したことで市民にも動きが出る。
新しい仕事には事欠かないで済みそうだ。」
「お待たせいたしました。
所持品の検査は終了です。
はい、特に問題はありませんので、どうぞお通り下さ……」
「大変だっ!街道の向こうに紫電が見えた!
エンディルが出現するぞっ!
全員、早く街の中へ退避しろ!」
「!!!」
「なんだって!?」
「門を閉めるんだっ!早くっ!」
「おうっ!」
「おい、ちょっとまてよっ! 向こうの原っぱを見ろよっ!」
「子供っ!?」
「どうしてあんな所にっ!?」
「知らねぇよっ!とにかくあいつを助けなきゃっ!」
「無理だ、遠すぎるっ!
あの少女は花摘みに夢中で、まだエンディルの襲撃に気づいていないっ!
なにより子供の遅い駆け足を待っていたら、この街全体が危険なことになるぞっ!!!」
「!!! ちくしょぉぉぉぉおっ!」
「グリフィスっ!?」
「おい、待てっ!いま門の外に出たら、もう中へは入れないぞっ!」
「それでも俺はな、あの子供を見過ごすことが出来ないんだよっ!!!」
「……アンタらしいよ、グリフィス。アタイもつきあうよ。」
「おい、待て、二人ともっ!引き返せっ!無茶だっ!!!」