『いつの日か、きっと』
「あれから2時間……マルスは散歩にでたまま、か……」
「ねぇねぇグリフィスちゃん、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「前から一度誰かに聞こうと思っていたんだけど、
剣と剣の戦いって凄く近距離でしょ?
死の恐怖って、ないの?」
「怖くない、と言えば嘘になるかもしれないな。
だが、あんたら魔導師と違って剣を主武器とする俺達は、
そんなこと考えている余裕なんかないんだよ」
「確かに、そうだな。」
「目の前にいる敵を倒す。戦いの最中はただそれしか頭にない。
全身を流れる血液を感じとれるぐらい神経を集中させるんだ。
そして集中が極限に達したとき、」
「全ては白黒の世界となり、ありとあらゆる動きが緩やかに見える、だろ?」
「俺の台詞を取るなぁぁぁぁぁっ!
……ぜーはーぜーはー。
とにかくそういうことだ。槍使いのお前なら分かるだろ?アーク?」
「うん。神経を研ぎ澄ますと、本来見えないはずの自分の背後まで分かる事があるよね。」
「それが、魔導師と俺達の違いだ。」
「ユリア師団長、プロの魔導師の方々は戦闘中はどのように?」
「えっとねぇ……やっぱり同じように集中するんだけど、
掌に理力を放出しながら、
思考速度を極限まで早めるのよ。」
「思考速度を?
理力放出は学校で教わったけど、
思考速度を速めるなんて教わらなかったぜ?」
「教わらなくても、魔導の実践を繰り返す内におのずと理解していくの。
思考速度が最高に達した瞬間、頭の中に発動させたい魔導のイメージを思い浮かべるの。
出来るだけ正確に、精密に、そして素早く。」
「イメージが完成したら、目を見開いてそれを言葉として発声するの
つまり詠唱することにより自分自身へと語り聞かせるのね。
ある種の自己催眠に近いのかしら?」
「そして、目を開いた事で脳裏から消え失せようとしていた
イメージを言葉によって取り戻す。
集中が極限に達したら、合図の言葉と一緒に発動させる。」
「……なんか小学校の時の魔導の授業を思い出してきたな。」
「アタイも同じように事を言われた記憶がある。」
「あ、バレた?
後半は小学校の時の教科書そのままだったんだけどねー☆
ほら、表紙に星の絵が描かれてた教科書。知ってる?」
「懐かしいな。道理で聞いたことがあると思ったよ……。」
「で、プロのあんたらは普通とどう違うんだ?」
「まず第一に、思考速度を瞬時に早めなければいけないの。」
「瞬時?」
「たぶん、コンマ秒以下で。」
「そ、そんなに早くにっ!?」
「そして第二に、それが本当に想像なのか現実なのか
自分でも分からなくなるぐらいに、
精密なイメージを思い浮かべること。」
「現実と想像が分からなくなったらマズイんじゃねぇのか?」
「言い方が悪いかもね……現実に想像を重ねるのよ。」
「重ねる?」
「魔導詠唱前、目を瞑って発動をイメージするでしょ?」
「ああ。」
「たとえ目を開けても
そのイメージが消えてなくならず脳裏に留まるぐらい
はっきりとイメージするの」
「どうやってだよ?」
「それも慣れよ。
そぉねぇ……グリフィスちゃん、
イメージした魔導の発動と現実の魔導の発動、どう違う?」
「そりゃ、頭の中で想像したほど現実にはうまく発動しないけど……」
「そう。
その頭の中のイメージと現実の差を無くすために、
想像と視覚を重ねるのよ。」
「……ユリア隊長、
それはつまり、
目を開けてもイメージが消えないようにするという事ですか?」
「ぴんぽーん☆
現実が想像に近づき、その両者が違いが分からないぐらいになれば、
自分の持つ魔導の力を100%出すことが出来る。」
「……へぇ……。」
「って、教科書に書いてあった。」
「おい。結局まる写しかよ。」
「!?」
「伝令!
バレンタイン港湾区域内に紫電発生!
発見が遅れたため、転移予想時刻まで猶予がありません!」
「港湾内っ!?」
「どういうことっ!?」
「はい、兵による監視は
ほとんどが街の外側へと向けられていたため、
市民による通報があるまで発見が遅れまして……。」
「そうじゃなくて、いきなり街の中に!?」
「はい。未知のケースですが、現実にそれが起こっています。」
「私達の状況は!?」
「はっ!
ほぼ全ての部隊が都市外周部にて待機していたため、
とっさに対処できずあちこちで混乱を招いております!」
「裏をかかれたっ!?」
「……マルスちゃんとは現地で合流したほうが早そうね。
すぐ行くわ、それまでに体勢を整えて。」
「はっ!」
「どの道、アタイ達がやることはただ一つ。」
「戦うしかないわけだね……。」
「ああ。ここが正念場だ……この戦いで、全てにカタをつける!」