Forbidden Palace Library #00 「失われた7枚」シリーズ 外伝

『いつの日か、きっと』




2時間後。
バレンタイン港・軍舎内作戦会議室


ベル 「あれから2時間……マルスは散歩にでたまま、か……」

ユリア 「ねぇねぇグリフィスちゃん、一つ聞いていい?」

ベル 「なんだ?」

ユリア 「前から一度誰かに聞こうと思っていたんだけど、
 剣と剣の戦いって凄く近距離でしょ?
 死の恐怖って、ないの?」

ベル 「怖くない、と言えば嘘になるかもしれないな。
 だが、あんたら魔導師と違って剣を主武器とする俺達は、
 そんなこと考えている余裕なんかないんだよ」

レィディ 「確かに、そうだな。」

ベル 「目の前にいる敵を倒す。戦いの最中はただそれしか頭にない。
 全身を流れる血液を感じとれるぐらい神経を集中させるんだ。
 そして集中が極限に達したとき、」

レィディ 「全ては白黒の世界となり、ありとあらゆる動きが緩やかに見える、だろ?」

ベル 「俺の台詞を取るなぁぁぁぁぁっ!
 ……ぜーはーぜーはー。
 とにかくそういうことだ。槍使いのお前なら分かるだろ?アーク?」

アークライト 「うん。神経を研ぎ澄ますと、本来見えないはずの自分の背後まで分かる事があるよね。」

ベル 「それが、魔導師と俺達の違いだ。」

レィディ 「ユリア師団長、プロの魔導師の方々は戦闘中はどのように?」

ユリア 「えっとねぇ……やっぱり同じように集中するんだけど、
 掌に理力を放出しながら、
 思考速度を極限まで早めるのよ。」

ベル 「思考速度を?
 理力放出は学校で教わったけど、
 思考速度を速めるなんて教わらなかったぜ?」

ユリア 「教わらなくても、魔導の実践を繰り返す内におのずと理解していくの。
 思考速度が最高に達した瞬間、頭の中に発動させたい魔導のイメージを思い浮かべるの。
 出来るだけ正確に、精密に、そして素早く。」

ユリア 「イメージが完成したら、目を見開いてそれを言葉として発声するの
 つまり詠唱することにより自分自身へと語り聞かせるのね。
 ある種の自己催眠に近いのかしら?」

ユリア 「そして、目を開いた事で脳裏から消え失せようとしていた
 イメージを言葉によって取り戻す。
 集中が極限に達したら、合図の言葉と一緒に発動させる。」

ベル 「……なんか小学校の時の魔導の授業を思い出してきたな。」

レィディ 「アタイも同じように事を言われた記憶がある。」

ユリア 「あ、バレた?
 後半は小学校の時の教科書そのままだったんだけどねー☆
 ほら、表紙に星の絵が描かれてた教科書。知ってる?」

レィディ 「懐かしいな。道理で聞いたことがあると思ったよ……。」

ベル 「で、プロのあんたらは普通とどう違うんだ?」

ユリア 「まず第一に、思考速度を瞬時に早めなければいけないの。」

レィディ 「瞬時?」

ユリア 「たぶん、コンマ秒以下で。」

ベル 「そ、そんなに早くにっ!?」

ユリア 「そして第二に、それが本当に想像なのか現実なのか
 自分でも分からなくなるぐらいに、
 精密なイメージを思い浮かべること。」

ベル 「現実と想像が分からなくなったらマズイんじゃねぇのか?」

ユリア 「言い方が悪いかもね……現実に想像を重ねるのよ。」

レィディ 「重ねる?」

ユリア 「魔導詠唱前、目を瞑って発動をイメージするでしょ?」

ベル 「ああ。」

ユリア 「たとえ目を開けても
 そのイメージが消えてなくならず脳裏に留まるぐらい
 はっきりとイメージするの」

ベル 「どうやってだよ?」

ユリア 「それも慣れよ。
 そぉねぇ……グリフィスちゃん、
 イメージした魔導の発動と現実の魔導の発動、どう違う?」

ベル 「そりゃ、頭の中で想像したほど現実にはうまく発動しないけど……」

ユリア 「そう。
 その頭の中のイメージと現実の差を無くすために、
 想像と視覚を重ねるのよ。」

レィディ 「……ユリア隊長、
 それはつまり、
 目を開けてもイメージが消えないようにするという事ですか?」

ユリア 「ぴんぽーん☆
 現実が想像に近づき、その両者が違いが分からないぐらいになれば、
 自分の持つ魔導の力を100%出すことが出来る。」

ベル 「……へぇ……。」

ユリア 「って、教科書に書いてあった。」

ベル 「おい。結局まる写しかよ。」


こんこん

ベル 「!?」

兵士 「伝令!
 バレンタイン港湾区域内に紫電発生!
 発見が遅れたため、転移予想時刻まで猶予がありません!」

ベル 「港湾内っ!?」

ユリア 「どういうことっ!?」

兵士 「はい、兵による監視は
 ほとんどが街の外側へと向けられていたため、
 市民による通報があるまで発見が遅れまして……。」

ユリア 「そうじゃなくて、いきなり街の中に!?」

兵士 「はい。未知のケースですが、現実にそれが起こっています。」

ユリア 「私達の状況は!?」

兵士 「はっ!
 ほぼ全ての部隊が都市外周部にて待機していたため、
 とっさに対処できずあちこちで混乱を招いております!」

アークライト 「裏をかかれたっ!?」

ユリア 「……マルスちゃんとは現地で合流したほうが早そうね。
 すぐ行くわ、それまでに体勢を整えて。」

兵士 「はっ!」

レィディ 「どの道、アタイ達がやることはただ一つ。」

アークライト 「戦うしかないわけだね……。」

ベル 「ああ。ここが正念場だ……この戦いで、全てにカタをつける!」


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