『いつの日か、きっと』
「入るぜ。
…………。
レィディ……怪我は大丈夫か?」
「あ、ああ、グリフィスか。
……大丈夫だ。
ちょっと血を流しすぎたみたいで、意識が朦朧としてるけどな。」
「しっかりしろよ、レィディ。」
「……アタイはね、
平凡な日々が嫌いだったから傭兵になったんだ。
家も名誉も、全て投げ出してね。」
「レィディ……?……何を突然?」
「グリフィス、前にアタイの本名を聞いた事があったよな?」
「あ、ああ。」
「教えてやるよ。
ソフィア=アンペール。
それがアタイの本名だ。」
「……ソフィア=アンペール……
って……ちょっとまてよ!?
アンペールって、カイザリアの名門のあのアンペア家かっ!?」
「そのアンペア家だよ。
お前も知っているかもしれないけど、
アンペア家には男児が生まれなかった。」
「ああ、聞いたことがある。」
「で、アタイの父親が病の床に伏せた時、跡取りをどうするかって話になった。
父親はアタイに後を継げと言った。でもアタイはそんなことゴメンだった。
そんな退屈な一生送りたくないからな。」
「…………。」
「妹もアタイを説得したよ。父の言う事を聞いてくれって。
確かに妹の言う事ももっともなんだよ。
アタイは小さい頃から武術を仕込まれてきたけどあの子は違う。」
「アタイと違って小さい頃から家事を教え込まれてきた子だったからね。
なによりあの子には、家を継げるほどの度胸がない。
クッキーを焼くのが得意な華奢な女の子が、武家の跡取りになれると思うかい?」
「だったらなおさらお前が跡を継がなきゃ誰が……。」
「アタイもそれで悩んだよ。
で、出た結論は一つ。
名門なんか捨てればいい。ただの一市民に戻ればいいんだってね。」
「もったいねぇ……。」
「そうかい?
どんなに家が繁栄しようとも、いつかは没落する時が来る。
だったら、惨めな状態で没落するよりも、まだ繁栄が残っている内に……。」
「それで、家を出てきたってわけか。」
「そうだ。」
「……だから、わざと荒っぽい口調を使っているんだな?本当の自分を隠す為に。」
「…………いつから気づいていたの?」
「ああ、マルスとの会話の時からな。そっちの方が自然っぽかったからな。」
「黙っているなんてイヤらしいわ。」
「お、おいっ!どこがイヤらしいっていうんだよっ!」
「ま、でもそうやってすぐにムキになる方が貴方らしいわね。」
「……あのさ、レィディ、いや、ソフィア
戦が終わったらずっと言おうと思ってたんだけどよ、
俺……前からずっと……。」
「グリフィス=ベル様、マルス師団長がお呼びです。」
「ああ、わかった。
ちぇっ。
……ちょっと行って来る。」
「ちょっと待って、グリフィス」
「?」
「これ、着けていって。」
「!? それって……お前のヘルム……」
「……ほら、じっとしてて。
はい。
……似合ってるわよ」
「……さ、さんきゅ。でもどうして?」
「いいから。ほら、早くいってらっしゃい。」
「あ、ああ……じゃあちょっと行って来る。」
「…………視界が……かすんできたわね……。
意識もぼんやりしてる……。
失血が……多すぎたのかしらね……」
「………………
ごめんなさい、グリフィス。
私……もう……だめみたい……。」
「おい、レィディ、聞いてくれよ!
俺に、シルバニア王立軍に正式に入らないかっていう話が来たんだ!
それもいきなり副師団長に推薦してみるだと!」
「なんでも、今の師団長達のほとんどがこの戦をきっかけに引退するから、
それで席枠が空いて俺にも異例のチャンスが……
……レィディ!?」
………………
「レィディっ!!!」
………………
「おい、レィディっ!返事してくれよっ!」
………………
「………………。」
………………
「……こんなの……ねぇよ……」
………………
「レィディぃぃぃぃぃっ!!!」