『終わらない夢の果てに』
ブランドブレイ王国 首都ブランドブレイ 馬車駅 農業と牧畜の国、ブランドブレイ。 シルバニア王国のかつての宗主国であり、大陸の三大国家の一つに数えられる由緒ある王国でもある。 三大国家の残り二つ、カイザリアとエルメキアには国土地形の面でやや劣るが、東西に伸びたその領土にはそれを補うかのように交通網が整備されており、流通の大いなる手助けとなっている。 王国は6つの州に分けられ統治されているが、そのすべての州がそれぞれ他国と境界を接しているという不思議な構造の国でもある。 |
「――この馬車に乗り、まずはステラ港まで行け。
そこで馬車をメーヴェルヴァーゲン街道経由シルバニア行きへと乗り替えれば、
貴様の祖父の元までたどり着けるはずだ。」
「…………。」
「戦時下ではどこもあまり安全の保証はないが、
少なくともここに留まるよりは安全だろう。
あの街には引退したラグランジュ5月騎士団長がいるはずだ。」
「…………。」
「それに何より、城壁がある。ちょっとやそっとじゃ陥落はしない。」
「……じょうへき?」
「ああ。魔導金属リルに守られた城壁が。
作られたのは数百年の昔だが、その堅固さは変わっていないはずだ。
なによりも、祖父がいることが貴様らにとって安心となるだろう。」
「…………だから、ここで負けろというの。」
「……どういう意味だ?」
「父親と母親を目の前で殺されて、
ここで尻尾を巻いていろというの!?
そんなのただの負け犬じゃない!!!」
「……いいか、戦いなど無益なだけだ。
争い、血を流したところで
得られるものの方が遙かに少ない。」
「でもっ!!!」
「アリス嬢、今は俺様の言うことに従え。
……貴様の父の率いていた7月騎士団は全滅した。
もう一度同じことを繰り返したいのか?」
「………………。」
「わかったら、行け。いいな?
「………………。」
「馬車が、動き出した…………。」
「……でも、ジェラードさん!」
「振り向くな。
もう馬車は動き出した。
……あとは静かに待つのだ、戦が終わるまで。」
「………………………。」
「行ったか…………。」
「…………悪いけど一部始終、
見させて貰ったわ。
あなた、なかなか面白い人ね。」
(!? エンディル!?
いつのまにそこにいた!?)
「……誰だ、貴様は?」
「――アートレーゼ。」