『終わらない夢の果てに』
ブランドブレイ王国 スノーウッド村 山とまではいかないが、そこそこ高い丘陵に囲まれた谷間の村。 土壌もよく、地下水が豊富にわき出るため、自然発生した代表的な村の一つと言えるだろう。 瓦解した水路からこんこんとこぼれ出る地下水はより低い方へと流れ、村の通りを水浸しにしていく。 幸か不幸か、村中に流れ出た水のお陰で家屋の延焼は免れているようだ。 生き残った村人達も逃げ隠れるのに精一杯で、燃えさかる家々を消火するほど余裕はない。 |
「村の半分は陥落したか……残りも時間の問題だな。
この村とバレンタイン港を押さえれば、
ゼルイリアスの攻めているシルバニアへの食料供給は半減する。
計画通りというわけか……。」
「…………ゼルイリアス。
そう、あの詩人は考えが甘すぎるのだ。
すぐに相手の裏をかこうとする。
それが裏目に出なければよいが……。」
「そこまでだ!!!」
「……また御主か。しつこい奴め!」
「戦いほど無益な物はない、そう言っているはずだ。」
「懲りずにまた説得に来たというのか。
だが、ジェラードと言ったな。
御主がそこまでして説得する理由がどこにある?
この地になにかゆかりでもあるのか?」
「確かにここは戸籍上、俺様の生まれた生家のある場所だ。」
「!!!」
「ほう。ならば尚更のこと手前が憎くはないのかね?」
「だとしても、戦いは無益だ。」
「……それでも己の道を信じるというのか。
いいだろう。
これでも、そう言っていられるのか?」
「!!!」
「家が崩れ落ちる!」
「自分の故郷を目の前で破壊されて、それでもまだ同じ事を言っていられるのか?」
「……ああ。言ったとおりだ。戦いは無益だと。」
「ちょっと、ゾロディエール! 貴方、正気なの!?
もしも家の中に人がいたらどうするのよ!
魔導文明だけを滅ぼして、
人間は生かしたままにするのがあなた達のやり方ではなかったの!?」
「いいか、これは戦争なのだ。
そんなに現実は甘くない。
少なくとも手前はゼルイリアスのように理想家ではないからな。
……そうだったな、こんなところで油を売っている暇はないのだった。」
「!?」
「ゼルイリアスが余計なことをする前に計画を遂行しなければならない。
恐らくザッハトゥリエも今頃バレンタイン港への攻略を開始したはずだ。
その流れに遅れるわけにはいかない。
私としては、今ここで御主を抹消したいのだが……後回しにするしかあるまい。」
「まだ、戦いを続けるというのか?」
「そうだ。」
「戦ったところで何になる?
確かに力の誇示は相手を一時的に服従させることは出来るかもしれない。
だがそれが力によるものである以上、決して完全にはなりえない。
「本当の支配は力では無理だといいたいのだな。
……ならばそこで指をくわえて見ているがいい。
どちらが正しいか、証明しようではないか。はっはっは!
OM KEVEES O... !」
「また消えたか……。」
「……ジェラード。
彼の言うことにも一理あるのよ。
こんな命がけの説得を続けて、
貴方にとって何になるというの?」
「だからといって
やめるわけにはいかない。
それが俺の信じる道だから。」
「……確かに貴方の言っていることは間違っていないわ。
でもね、時には力が必要なこともあるのよ。
常に力を誇示し続けるのは自分の弱さを隠す醜さでしかないけど、
本当に隠された力は切り札にもなるのよ。」
「わかってる。こいつは、その為の武器だ。」
「……武器?
その道具が?
――信じるわよ、その言葉。」