『終わらない夢の果てに』
ブランドブレイ王国 カイザリア帝国 国境 国境と言っても、塀があるわけではない。 低い柵は設けられているものの、それは人を拒むためではなく国境線を明確に表すためのものでしかない。 その両脇に建てられた決して小さくはない両国合同の検問所は、土台を残して完膚なまでに破壊されている。 この大陸には存在しないが――鉄と、生臭い肉の匂いのみを残して。 |
「……血の匂いがするわね。」
「ああ。この検問所にいた兵士のものだろう。」
「どうやら力ずくでここを通過したようね。
……でも、前からそんな暴力的だったかしら?
私の知っているゾロディエールとは、少し違う気がするわ……。」
「力に頼るのは、己が弱い証拠に他ならない。
自分の力を誇示することでしか満足を得られないような奴は、
所詮互いに力を削り合う以外に道はない。」
「そしてまた、多くを喋る者も然り。
弱い犬程良く吠える。
だが噛みつけば噛みつく分だけ、それは全て己に返ってくる。」
「本当に強ければ、力を誇示する必要なんかないってこと?」
「………………。」
「本当、あなたって分からない人。
そんな道具で何ができるっていうの?
動かなければ、始まらないのよ。」
「全て、というわけにはいかないが、部分的には動かすことが出来る。」
「どういう意味?」
「こういう意味だ。
そう、このハサミは実に華麗に動く。
それだけでなくシャフトも伸縮自在なのだ。ちゃきーん。」
「……ちゃきーん、じゃなくて。
答える気はないってことね。
まぁいいわ。今はまだ聞かないでおくわ。」
「それよりも、今は奴の後を追うのが先だ。
奴は……この国境を破壊した後、
――東に進んだのか? 何故?」
「東? 確かにちょっと変ね。
この世界に来てから少し調べさせて貰ったんだけど、
このあたりの地方は攻略してもシルバニアへの食糧供給には
ほとんど関係ないはずよね?」
「……ああ。
シルバニアからは離れすぎているうえに、
カイザリアとシルバニアは直接食料の流通は行っていない。
例え氷漬けにしても、これほどの長い距離を運ぶと食物は痛んでしまう。」
「じゃあ何の為にこの地方を攻略しようとしているのかしら?
ゼルイリアスやザッハトゥリエと連携を取るためなら、
もう使命は済んでいるはず――。
……ゾロディエール、貴方は一体何を考えているの……?」
「…………あれは!
土煙!?
東の方角からだ!!!」
「どうやら、彼はあの街にいるみたいね。」
「急ぐぞ!!!」