『終わらない夢の果てに』
「無事に馬車は出発したか……。
今度こそ間違いなく、
シルバニアに着いてくれるだろう……。」
「……相手が納得するまで話し合う。
それがあなたの説得方法というわけね。
大した自信家なのね。そしてお人好し。」
「――アートレーゼ。」
「面白い人ね、あなたって。」
「別に。
ただ、戦いなどという無益なことをしたくないだけだ。
互いに力を削り合ってもなにもならないからな。」
「まるで神に仕える司祭みたいなことをいうのね。」
「『カミ』……?」
「そうだったわね……どういうわけかは知らないけど、
この世界には『神』という言葉どころか
概念そのものが抜け落ちてるのよね。
そう、まるで誰かに消されたかのように……。」
「なんだ、その『神』というのは……?」
「かつて、まだ人間が未熟だった頃。
当時の人間にはまだ理解できない現象を説明するのに、
神という名の架空存在を作り上げることで
矛盾を解決しようとしていたの。」
「それにまつわる言葉はまだあなた達の世界にも残っているわ。
……ほんの、わずかだけど。
それだけ必要とされていた時代があったのよ、あなた達の世界にも。」
「俺様には……神なんか必要ない。
この高枝切りバサミさえあれば、それでいい。
戦えないための、この道具さえあれば……。」
「……戦えないため?貴方、どういう……」
「そんなことはどうでもいい。
とにかく今は追うぞ、ゾロディエールを。
奴の足跡が消える前に。」
「…………本当に、面白い人ね、あなたって。」