Forbidden Palace Library #00 「失われた7枚」シリーズ 外伝

『終わらない夢の果てに』




カイザリア帝国
壊滅帝都
ネルクスの塔


月のない夜。
既に陽は落ち、空は深い碧色に包まれている。
ほんのり緑を帯びた青銀色の塔は、その外観を空の色で染め、静かに光沢を放っている。
その輝きは不気味に、だが深く、全てを飲み込むかのようだ。
まるで、これから起ころうとすることを暗示するかのように――。


そして、その塔の内部では――


アートレーゼ 「……これが、塔?」

ジェラード 「のようだな。
 俺様も初めて入るが……
 このように中が空洞だったとは。」

アートレーゼ 「未完成? にしては整いすぎているわ……。
 ということはこの空洞は、
 最初から予定されていたものなの?」

ジェラード 「……かもしれないな。」

アートレーゼ 「まるで、バベルの塔……。」

ジェラード 「バ……ベル?」

アートレーゼ 「……私のいた世界に存在した、遙か昔の神話にあるのよ。
 かつて人は神のいる場所を目指して塔を築き上げようとした。
 でも、それは神の逆鱗に触れ、塔は壊されたって……ね。
 恐らくこの世界にも、同じ話が存在していたはずよ。」

ジェラード 「同じ話が?
 世界が違うのに……どういうことだ?
 ……遥か昔の、神話?」

アートレーゼ 「いずれ真実は昔話となり、昔話は伝説となる。
 そして伝説は美化され、神話となる。
 物語に登場する人物と共に。」

アートレーゼ 「あなた達の世界にも、いずれそういう時代が来るはずよ。
 でも、今はまだこのままでいいのかもしれない。
 『神』なんていう概念は、知らない方がいいのよ。」

アートレーゼ 「……結局、人間に戦争をもたらすのは『神』なのよ。
 異なる『神』を信仰する者達の間で『神』の定義を巡り争いが起こり、
 その争いを収めるために互いに自分の『神』を押しつけようとする。」

アートレーゼ 「そして、どちらかが完全に滅びるまで戦争は続く。
 時には何百年も、何千年も。
 自分の信じているものが結果的に自分を滅ぼしているというのに。
 ……どうして人間ってそんなことも理解できないのかしらね。」

ジェラード 「まるで、自分が人間でないような言い方だな。」

アートレーゼ 「……わたしをまだ人間だと思っているの?」

ジェラード 「違うのか? 外見は若干異なるかもしれないが、
 こうして言葉――多少の訛の違いはあるが、通じてる。
 それに、俺様も肌が青く生まれていた可能性だってありうるのだろう。」

アートレーゼ 「……かつて戦争の前線で死を遂げた若者が、
 その数百年後に同じ戦線で今度は敵として生まれ変わる。
 人類がみんなあと少しずつでも貴方みたいな考えを持っていれば、
 そんな無意味な戦いも、防げたかもしれないのにね……。」

ゾロディエール 「無駄だ。」

アートレーゼ 「!!!」

ゾロディエール 「人間は、生まれつき愚かすぎるのだ。
 例え時を幾星霜経ようとも、
 世界が滅ぶまで理解することなどできない。」

ジェラード 「ゾロディエール!!!」


▽ ……。



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