『終わらない夢の果てに』
カイザリア帝国 壊滅帝都 ネルクスの塔 月のない夜。 既に陽は落ち、空は深い碧色に包まれている。 ほんのり緑を帯びた青銀色の塔は、その外観を空の色で染め、静かに光沢を放っている。 その輝きは不気味に、だが深く、全てを飲み込むかのようだ。 まるで、これから起ころうとすることを暗示するかのように――。 |
「……これが、塔?」
「のようだな。
俺様も初めて入るが……
このように中が空洞だったとは。」
「未完成? にしては整いすぎているわ……。
ということはこの空洞は、
最初から予定されていたものなの?」
「……かもしれないな。」
「まるで、バベルの塔……。」
「バ……ベル?」
「……私のいた世界に存在した、遙か昔の神話にあるのよ。
かつて人は神のいる場所を目指して塔を築き上げようとした。
でも、それは神の逆鱗に触れ、塔は壊されたって……ね。
恐らくこの世界にも、同じ話が存在していたはずよ。」
「同じ話が?
世界が違うのに……どういうことだ?
……遥か昔の、神話?」
「いずれ真実は昔話となり、昔話は伝説となる。
そして伝説は美化され、神話となる。
物語に登場する人物と共に。」
「あなた達の世界にも、いずれそういう時代が来るはずよ。
でも、今はまだこのままでいいのかもしれない。
『神』なんていう概念は、知らない方がいいのよ。」
「……結局、人間に戦争をもたらすのは『神』なのよ。
異なる『神』を信仰する者達の間で『神』の定義を巡り争いが起こり、
その争いを収めるために互いに自分の『神』を押しつけようとする。」
「そして、どちらかが完全に滅びるまで戦争は続く。
時には何百年も、何千年も。
自分の信じているものが結果的に自分を滅ぼしているというのに。
……どうして人間ってそんなことも理解できないのかしらね。」
「まるで、自分が人間でないような言い方だな。」
「……わたしをまだ人間だと思っているの?」
「違うのか? 外見は若干異なるかもしれないが、
こうして言葉――多少の訛の違いはあるが、通じてる。
それに、俺様も肌が青く生まれていた可能性だってありうるのだろう。」
「……かつて戦争の前線で死を遂げた若者が、
その数百年後に同じ戦線で今度は敵として生まれ変わる。
人類がみんなあと少しずつでも貴方みたいな考えを持っていれば、
そんな無意味な戦いも、防げたかもしれないのにね……。」
「無駄だ。」
「!!!」
「人間は、生まれつき愚かすぎるのだ。
例え時を幾星霜経ようとも、
世界が滅ぶまで理解することなどできない。」
「ゾロディエール!!!」