『真実の継承者(前編)』
セリフォス共和国 首都セリフォス コバルト海に浮かぶ大陸の離島、セリフォス。 この島の歴史は大陸歴と同時に始まると言われている。 かつて存在したラファエル王国の崩壊時、王都シャロンに住んでいた人々の逃げた先がこの島だったと、歴史の教科書では教えている。 もっとも、幻の王都シャロン自体が大陸のどこに位置していたのか未だに知られていないため、その真偽は明らかにされていないが。 |
「魔導原本?」
「ああ。
ウィリアム、お前もわしの孫ならば知っとるだろう?
魔導の原理が記されているという数枚の紙切れの伝説を。」
「そりゃ知っているけどよ……所詮は伝説だろ?
本当に存在するかどうかすら怪しいじゃねぇか。
突然どうしたんだよ、じっちゃん。そんな話して?」
「わしもついこのあいだまでは伝説の存在だと思っていた。
だが、どうやら架空の存在ではなく、
どうやらシェザに魔導原本が実在しているらしくてな。」
「シェザに?どうしてまたそんなところに。」
「まぁ、これを見てみい。」
「やけに古めかしいな。……これ、日記帳か?
アンシェ・エングリシア
……古代世界語に近いけど、ちょっと違う言語だな……。
ってことはなんだ、この日記は大陸歴以前に書かれたとでも言うのか?」
「ああ。それを裏付ける証明がもう一つあってな。
見てみい、その紙質。
現代の文明ではこんな材質の紙を作ることはできんだろ。」
「ということはこの日記はラファエル王国時代、
いや、もしかするともっと昔の年代ものなのかっ?
でもそんな日記がどうして突然出てきたんだ……?」
「突然ではないんだがな。ほれ、覚えているか?
10年ほど前、シルバニア公国の国立図書館を増設するとかで
公爵様が直々にいらしたときのことを。」
「ああ、覚えているぜ。
あの物わかりの良さそうな気さくなおっさんだろ?
それがどうしたんだ?」
「おっさん言うな。あれでも公爵家の人間じゃぞ。」
「わかったよ。……それで、そのおっさんが何か?」
「実はその時に、地下書庫でたまたまこの日記帳を発見してな。
以来、暇なときに読み進めていたのだが妙な記述を発見したのじゃよ。
ほれ、ここじゃ、ここ。断片的な単語読みでもいい。読んでみ。」
「……含まれる……3枚の、魔術書、破片、埋める。
3……層?分別、なぜなら、発見を困難に……ウシュアイアの地に。
ウシュアイアって氷都シェザの旧名だよな、確か?」
「そうじゃ。わしもそれ以外にウシュアイアなんぞという地名は知らぬ。」
「……ところで、これなに?」
「日記帳。」
「いや、あのなぁ。そのぐらい見ればわかるってば。
……じっちゃん。
俺のこと馬鹿にしていないか?」
「そうとも言うな。」
「……このじじいは……覚えてろ。
よくねえけどまぁいいや。
で、この箇所がなんなんだよ?」
「よいか、ウィリアム。一般に教えられている歴史では
魔導は旧文明が崩壊した後に、この世界にもたらされたとされている。
いや、存在していたかもしれんが、少なくとも公に認められてはいなかった。」
「それなのにこの日記には『魔術書』という単語が出てくる。
『魔導』ではなく、古い言葉で『魔術』と。
何か妙な話だとは思わんか?」
「……つまり、
魔導という言葉が定着する以前か、あるいはその前後の時代に
書かれた可能性があるということか?」
「やはりお前もそう思ったか。わしも同意見じゃ。」
「なるほどな、もしかすると
旧文明崩壊後どのようにしてこの大陸に魔導がもたらされたのかについての
手がかりになるかも知れないというわけか。」
「そうじゃ。で、わしはここに記されている『魔術書の破片』というのが
魔導原本のことではないかと思ってな。
いや、そう考えれば前後の日記のつじつまも一致するのだよ。」
「確証は?」
「あるわけなかろうて。」
「要するにじっちゃんの推測なんだな?」
「そうとも言うな。」
「こ、このじじいは……。」
「そこで、ウィリアムにはそいつを調べてきて貰おうと思ってな。」
「……俺が?冗談だろ?」
「冗談なんかではないぞ。
それに言うではないか。
可愛い子には旅をさせろとな。」
「あ、俺、可愛くないから遠慮しとくよ。」
「せっかくわしが孫に良い機会を与えてやろうとしているのだぞ?
両親にも先立たれた可愛いただ一人の孫に少しでも成長して貰おうと思って。
アシスト家は代々この図書館の管理人となる定め。だから若い内に……」
「要するにさ、本当はただ単に興味本位で魔導原本の存在を確かめたいだけなんだろ?」
「そうとも言うな。」
「……じじぃ、てめぇ……。」
「まぁまあ、落ち着けウィリアム。」
「で、その為にかわいい孫を一人旅に出すと?」
「無理に回収してこいとはいわん。
危険ならば手を出すな。命の方が大切だからな。
ただ、存在を確かめたいだけなのじゃ。」
「……わかった。
少しでも危険な目に遭いそうだったら手を出さない。
そういう条件でいいんだな?」
「ああ。それ以上は望まん。」
(だったら適当に旅して、
みつからなかったって報告すればいいか。
……どうせ存在なんかするわけないんだし。)
「何かいったか?」
「いや、何も。で、出発はいつだ?」
「今日。」
「…………ちょっとまて、じっちゃん。いつ出発だって?」
「今日。」
「……ようするに『いいからとっとと行って来い』ってことか?」
「そうとも言うな。」
「こ、このじじいは……。」