Forbidden Palace Library #W01 『真実の継承者(前編)』

『真実の継承者(前編)』




ブランドブレイ王国
ステラ港


星の港、ステラ。
遙か昔の言葉でその意味を持つ、この港の歴史は古い。
一説には、ラファエル王国以前にまで……つまりは旧文明時代まで歴史をさかのぼれるという噂もある。

いくつもの街道が交わる要所となっているこの都市は、大陸で最大の規模を誇る。ありとあらゆる物が揃うため、「市場都市」と称され事もある。
唯一の難点は、都市規模が故に物価も高いということだ。


セディ 「ふっ。とりあえず不戦勝と言ったところか。
 サード=ノーベル騎士団長と言ったな。
 感謝しよう。ありがたく思え。」

ウィリアム 「そ、それって感謝する態度か……?」

サード 「いやいや世界平和のためならたとえこの命が朽ち果てようとも
 でも朽ち果てるっていうとなんかミイラ化するっていうイメージがあるなぁ。
 それは怖いから前言撤回。でも負けない。」

ウィリアム (……なんか話が極端な方向に進む奴だなぁ。)

サード 「ところで、腕の中のその女性は気絶してるみたいだけど大丈夫?」

ウィリアム 「あ、そうだった。
 おい、起きてくれ。
 えっと……名前、なんだろ?」

マリー 「……マリー。
 マリー=エーデルワイス。
 エルメキア礼法国の外交官をやっております。」

ウィリアム 「え?……あれ?気がついたのか?」

マリー 「ええ、今ほど。ミイラ化がどうのこうのという辺りから……。」

サード 「夢より目を覚ました眠り姫。
 自分が寝ている間に体に何をされたのか真実を知らぬまま、
 彼女はこれから生きていくのか。」

マリー 「ひどいですわっ!……蹴りっ!」


ごんっ!

ウィリアム 「いってぇぇぇぇぇっ!!!」

マリー 「私が眠っている間に何をしようとしたんですかっ!?」

サード 「みたいなシチュエーションだったら大変だよね。」

マリー 「……え?……みたい……な?
 ということは、嘘なんですか?
 その、眠っている間に……どうのこうのというのは……?」

サード 「はい。」

ウィリアム 「即答するなよ、おい。いてててて。」

マリー 「も、申し訳有りませんっ!て、てっきり……。」

サード 「気がついたときには目の前には倒れ伏す命の恩人。
 記憶がない。ああ、自分は何をしてしまったのだろうか?」
 ああ、ここはだれ?わたしはどこ?」

ウィリアム 「その語順はある意味で猟奇的な気がするんだが……?」

セディ 「ふっ。同感だ。」

ウィリアム 「……なぁ、サード。
 しゃべるのは自由だが、しばらくだまっててくれ。
 話がややこしくなる。」

サード 「スコップ?はい、小さいの持ってるからあげよう。」

ウィリアム 「そのシャベルじゃなくてさ。
 ……って、
 なんでそんなモノ持ってるんだよ?」

サード 「出陣前に職場の友人から貰った。」

ウィリアム 「ロクでもないな、お前の職場。」

サード 「そんなわけでこのスコップあげよう。」

ウィリアム 「……いらねぇって。
 まぁいいや。そういや自己紹介がまだだったな。
 俺はウィリアム。ウィリアム=アシスト。ただの旅人だ。」

マリー 「ありがとうございます、ウィリアムさん。」

ウィリアム 「ウィルでいいぜ。」

マリー 「わかりましたわ、ウィル。」

ウィリアム 「……いや、その堅苦しい口調なんとかならねぇか?」

マリー 「この法のヘルムを身につけている間は無理ですわ。」

ウィリアム 「まぁいいや。
 とりあえず怪我が無くてなにより。
 だが、さっきの肌と髪の青いあいつら……まさか。

セディ 「300年前にも似たような現象が起こっている。」

ウィリアム 「……やはり、そうなのか?」

セディ 「ふっ。その通り、エンディルが再び攻めてきたのだ。
 ……戦の、始まりだ。
 奴らとの戦いに備えて、早いところ残りの魔導原本を手に入れる必要があるな。」

ウィリアム 「魔導原本?……ひょっとしてお前も探しているのか?」

セディ 「……ふっ。ということは貴様もまた探していると言うことか。」

ウィリアム 「ああ。その為にシェザまで行かなくちゃならねぇんだけどよ。」

セディ 「……シェザにあることまで知っているというのか。
 ウィリアム、質問だ。
 手に入れて、どうする気だ?」

ウィリアム (……別にそのぐらい、言っても構わないよな。)

ウィリアム 「手に入れようだなんて思っちゃいないって。
 ただ、じっちゃんに頼まれて実在するのかどうかを
 確かめて来いと言われただけで。」

セディ 「ふっ。その言葉、偽りはないな?」

ウィリアム 「あ、ああ。」

セディ 「……ふっ。わかった。
 ならばついて来い。
 存在の可否ぐらい確かめさせてやる。」

ウィリアム 「え?……いいのか?」

セディ 「ふっ。無理にとは言わないがな。
 だがその髪の色と姓名から察するに、
 セリフォス総合図書館の守護家の血筋の者なのだろう?」

ウィリアム 「あ、ああ。まぁな。……よくわかったな?」

セディ 「ふっ。あの一族の者ならば一応は信用しても構わないだろうと判断したまでだ。」

ウィリアム 「……うちの家系に誰か知り合いがいるのか?」

セディ 「ふっ。昔、な。少なくとも不信には値しない。
 ……一晩休んで、明日出発だ。
 ウィリアム、異存はないな?」

ウィリアム 「あ、ああ。」
(……なんだか、
 妙な事になってしまったなぁ。)


▽……。



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