『真実の継承者(前編)』
ブランドブレイ王国 ステラ港 星の港、ステラ。 遙か昔の言葉でその意味を持つ、この港の歴史は古い。 一説には、ラファエル王国以前にまで……つまりは旧文明時代まで歴史をさかのぼれるという噂もある。 いくつもの街道が交わる要所となっているこの都市は、大陸で最大の規模を誇る。ありとあらゆる物が揃うため、「市場都市」と称され事もある。 唯一の難点は、都市規模が故に物価も高いということだ。 |
「そう……やはりシェザに、行くのですね。」
「ああ。それが俺の旅の目的だからな。」
(それに……このセディとかいう男もまた魔導原本を探しているという。
もしかすると、本当に実在するのかもしれない……興味が湧いてきたな。)
「……気を、つけて下さいね。」
「マリーこそ。気をつけてエルメキア礼法国へ帰れよ。」
「はい。…………あの、」
「なんだ?」
「その……いつか、また……会えますよね?」
「ああ。
……きっと会えるさ。」
(何故だろう。胸が、痛い。締め付けられるように。)
「世界は広い。そして人と人の出会いは一期一会。
ああ、愛しの君よ、どこへ行くのか。
だからせめてその前にその体を……。」
「ひどいですわっ!
そんな目で見ていたんですのねっ!
……蹴りっ!!!」
「いってぇぇぇぇっ!」
「とか言ったらどうするんだろう。うーん、でも負けない。」
「え?……ひょっとして、また誤解でしたの?」
「……こいつが、こいつがあることないことべらべらと喋るから……。」
「誰?そんな事するのは?」
「お前以外に誰がいる?
……5月騎士団だか7月騎士団だか知らないけど、
騎士団長ってこんな奴がやっててつとまる役職なのか?」
「ウィリアム君、俺が所属しているのは7月(Quintilis)騎士団。
5月(Maius)騎士団じゃないよ。
そういえば5月騎士団のラグランジュ騎士団長ってうるさいんだ本当に。」
「うるさいのはお前の方だと思うんだが……。」
「代々団長を務めているのからすぐに古くさい習慣を重んじるんだよね。
そういえば家訓に従って代々生まれた娘に花の名前を付けているらしいけどさ、
ラフレシアなんて名前つけられたら嫌だよねっていうか俺は嫌。でも負けない。」
「ダメだ、暴走は止まりそうにない。」
「……とりあえず、ここでお別れですわね。
私も仕事が終わり次第、エルメキアに帰らなければなりませんし。
お元気で、ウィル。」
「ああ……元気でな、マリー。」
「……さようなら。」
「行っちゃったね、マリーさん。」
「ああ。」
「本当は、止めて欲しかったんじゃないのかな、マリーさん。」
「え?」
「俺もそろそろ引き上げるとするか。
しばらく滞在した後、
シルバニアに行かなくちゃいけないしね。」
「ふっ。早くしろ、ウィリアム。馬車に乗り遅れるぞ。」
「ああ、いま行く。」
(……マリー……また、会えるよな。
今は、そう信じていよう。)