『真実の継承者(前編)』
フェーゴ共和国 氷都シェザ シェトランド海に面した大陸最南端の都市、シェザ。 夏場でも涼しく、万年氷河が残る気候ゆえに『氷都シェザ』と呼ばれることが多い。 それでも人類が居住しているのは、大陸有数の漁港の一つであるがため。 東から西への海流の激しさ故に、遠い海から珍しい魚が流されてくる事も少なくないという。 |
「あー、あのときのおっちゃんっ!!!」
「……ふっ。
誰かと思えばあの時の小娘か。
だから私はおっちゃんではないと……」
「わかった。で、おっちゃん、なにしてるの?」
「ふっ。貴様、人の話を聞いていないだろう?」
「……おっちゃん。」
「ふっ。ウィリアム。
貴様までそういう事を言うのか。
……それ相応の覚悟は出来ているんだろうな?」
「ああ、いやいや、なんでもない。
ただの冗談だ。気にしないでくれ。
……ところで知り合いなのか、セディ?」
「ふっ。まぁな。」
「というわけで、はい。」
「ふっ。なんだ、その手は?」
「10年前の報酬の追加分をちょーだい。
1リルは少なすぎるとおもうなぁ。
ろうどうきじゅんほういはんー。」
「ふっ。
難しい言葉をあまり意味も分からず使いおって。
……そういうところは全然変わってないな。」
「でもおっちゃんも10年前と全然かわってないー。」
「ふっ。余計なお世話だ。」
「10年前?」
「ふっ。10年前、この町でちょっとした事件をきっかけに知り合ってしまってな。」
「あー、なんか思いっきり不満そうー!」
「……なぁセディ、おまえ本当は何歳なんだ?」
「ふっ。秘密だ。
……こんなところで油を売っている時間はない。
目的の場所に行くぞ、ウィリアム。」
「え?おっちゃんいつからオイル商人になったの?」
「……ふっ。意味が違う、意味が。
余計な時間を浪費している暇はないと言うことだ。
とっとと探しに行くぞ、ウィリアム。」
「あ、あたしも行くーっ!!!」
「……ふっ。何故お前がついてくる?」
「面白そうだからー。だって、弟からかうのにもあきたしー。」
「弟?10年前はいなかった気がするのだが。」
「うん。今年8歳になるんだけどねぇ、
最近からかっても面白くないんだもん。
生意気に反抗すること覚えちゃって。」
「ふっ。
貴様の姉はどうした、あの高飛車な姉は。
奴と遊んでいれば良いではないか。」
「オーロラおねぇちゃんはねぇ、去年押し掛け女房するんだって家出した。」
「家出?」
「ふっ。どこにだ?」
「となりのおにぃちゃんの家に。」
「……それって家出っていうのか?」
「とにかく、あたしついてくもーん☆ わくわく」
「ふっ。子供の来るところではない。帰れ。」
「あたしもう子供じゃないもーん、16歳だもーん。」
「ふっ。
6歳だろうが16歳だろうが、
十の位を四捨五入すれば同じ事だ。」
「いや、なんでそこで十の位を四捨五入するんだよ?」
「ぷんぷん。
とにかくローラ子供じゃないもーん。
ついていくったらついていくーっ!」
「……こ、子供だ。」