『真実の継承者(前編)』
フェーゴ共和国 氷都シェザ シェトランド海に面した大陸最南端の都市、シェザ。 夏場でも涼しく、万年氷河が残る気候ゆえに『氷都シェザ』と呼ばれることが多い。 それでも人類が居住しているのは、大陸有数の漁港の一つであるがため。 東から西への海流の激しさ故に、遠い海から珍しい魚が流されてくる事も少なくないという。 |
「……なぁ。
なんかさっきから同じような所をぐるぐる歩き回っている気がするんだけど、
本当にこのあたりなのか?」
「ふっ。恐らくはな。
旧文明時代崩壊時に大陸が地殻変動したとはいえ、
この辺りは海峡が河になった程度で被害は少なかったはずだ。」
「???」
「計算が正しければ、地殻変動後の目標地点は……
南緯54度59分、西経68度1分。
……!?」
「どうしたの、おっちゃん?」
「……この下なのかもしれんな。
ウィリアム。
言った通りスコップを持ってきただろうな?」
「ああ。小さい奴だけど、ほれ。」
「ふっ。ここを掘って見ろ。」
「……え?俺が掘るの?」
「ふっ。
貴様には特別に魔導原本の実在の可否を確かめさせてやるのだ。
そのぐらい感謝のしるしとして当然のことだろう?」
「あー、なんかムカつくけど……わかった。掘ってみるよ。」
「まだー?」
「ふっ。いま堀り始めたばかりだ。そんなすぐに出るわけがあるまい。」
「……まだー?」
「ふっ。貴様には堪え性ってものがないのか?」
「それっておいしい?」
「ふっ。……食べ事しかないのか、貴様の頭の中には。」
「だってお腹すいたんだもーん。早く何か食べにいこーよー。」
「……なぁ、セディ。
今ふと疑問に思ったんだが、この辺りって昔は未開だったんだろ?
それなのに、旧文明時代に誰かがわざわざ埋めに来たっていうのか?」
「……確かにそう考えるのが普通だろうな。
ローラ。
学校の歴史でこの周辺のことをどう習った?」
「ラファエル王国時代にシェザっていうシスコンのにーちゃんが
調査に来たのが南方開拓の始まりなんでしょ?
それで王国が崩壊した後に一斉に移住が始まったって。」
「……なんだよ、シスコンのにーちゃんって?」
「だって学校でそう習ったんだもん。
魔導金属の発明者でもある妹のシェナちゃんにベタ惚れだったんだって。
血の繋がった兄妹なのにヤバイよねー、なんとなく。」
「ふっ。この辺りは未開だった訳ではない。旧文明の落とし子がまだ残っていたのだ。
その落とし子を抹消し、再び人が住めるような状態にするために調査団が結成された。
……ふっ。歴史と真実が一致しないのはよくあることだ。」
「旧文明の落とし子?」
「ふっ。
これ以上の事を知りたければ自分で調べるんだな。
それよりウィリアム、その掘る手を休めるな。」
「覚えてろ、あとで。
……ん?
土の中に何か感触が……板?いや、箱?」
「ふっ。
どうやら正解だったようだな。
その箱を開けてみろ。」
「おう。」
「どきどきどきどき。」
「ふっ。いちいち口でどきどき言わんでよろしい。」
「ぶーぶー。」
「動悸を起こしたり豚になったり忙しい奴だな。」
「ローラぶたじゃないもーん。ぷんぷん。」
「……なぁ、中身が空なんだけど、この箱。」
「ふっ。その通り。その一番上の箱の中身は既に私が持っているからな。」
「おい。」
「ふっ。
その箱をどけて更に下を掘って見ろ。
私の調査が正しければ、2つ目があるはすだが。」
「? ……また同じ感触? ということは?」
「ふっ。開けて見ろ。」
「紙? ……ちょっと待て、まさか……これが……!?」
「ふっ。そうだ。
『魔導原本』。そう呼ばれる存在だ。
実在を確認したなら、こちらへ渡して貰おう。」
「あ、ああ。ほれ。
……まさか、本当に実在するなんて。」
(という事は、あの日記の記述は正しかったと言うことか?)
「ふっ。
……これで、計5枚か。
残りはあと2枚……。」
「ねぇ、それ何?まどうげんぽんって???」
「ふっ。子供は分からんでよろしい。」
「あー、おっちゃんずるーい。
それにあたしもう子供じゃないもーん。
子供あつかいしないでよねー。」
「ふっ。貴様が私のことをおっちゃんと呼ぶのを止めたら考えてやろう。」
「そんな……ひどぉいっ!」
「ふっ。ちょっと待て。どこが非道いというのだ?」
「……分かったわよ。セディおにぃちゃん☆」
「ふっ。呼んだか?」
「これで大人って認めてくれるんでしょ?」
「ふっ。
誰が認めるだと?
私は考えるとは言ったが認めるとは一言も言っていないぞ。」
「あーーーっ!ひっどぉぉぉぃっ!!!騙したぁぁぁっ!!!」
「ふっ。人聞きの悪いことを言うな。騙される方が悪いのだ。
……それよりアシスト。
早く土を元に戻してはどうだ?」
「ちょっと待て、そこまで俺にやらせる気か?」
「ふっ。私がいなければ実在を確認することもできなかったであろう?
そのぐらい感謝のしるしとして当然ではないか。
そんな訳で先に宿屋に帰っているぞ。」
「あたしも先に帰ってるねー。
おなかすいたっ。ビーフシチュー。
ビーフシチュー、ビーフシチュー、ビーフシチュー。」
「ふっ。何故私の方を見る?」
「えー、おごってくれないのー?」
「ふっ。
何故貴様ごとき小娘に奢らねばならぬのだ?
第一、私はビーフシチューよりビーフストロガノフの方が……」
「格好いいセディおにぃちゃん☆」
「ふっ。よかろう。
代金は全部持とう。
好きなだけ食べるがよい。」
「というわけで先に町に帰ってるねー☆」
「……てめぇら……覚えてろ。」