『真実の継承者(前編)』
フェーゴ共和国 氷都シェザ シェトランド海に面した大陸最南端の都市、シェザ。 夏場でも涼しく、万年氷河が残る気候ゆえに『氷都シェザ』と呼ばれることが多い。 それでも人類が居住しているのは、大陸有数の漁港の一つであるがため。 東から西への海流の激しさ故に、遠い海から珍しい魚が流されてくる事も少なくないという。 |
「ったく。
あいつら薄情だよなぁ。
……まあその方が今回はかえって好都合だったけどよ。」
「……3重に、隠されている。そう書いてあったよな、あの日記には。」
「3つ目の箱?……ということは?」
「……本当に……紙がもう一枚……あった。」
(それにしてもあの日記の持ち主は何の目的でこんな所に隠したんだ?
それも、魔導のないはずの旧文明時代に……。)
(そして、ここに隠されていた紙が本当に魔導原本だとするならば、
こいつは旧文明時代に書かれたことになる……。
……わからない。考えれば考えるほどわからない。)
(まてよ、最初から整理してみよう。
……紙質と言語から判断するに、こいつは明らかに旧文明時代のものだ。
しかも、印刷じゃない。手書きだ。むしろノートに近い。)
(そう、破れかたからして、ノートの1ページをちぎった様な感じだ。
だとすれば、この紙はそのノートから抜け落ちたと言うことになる。
とすれば、ノート本体がどこかにあるはず……だよな。)
(そのノートが、今日我々に魔導原本と呼ばれる存在だとするならば、
そこには魔導の全てが、魔導原理の全てが記されているはず。
つまり、この紙はそのノートの一部?……まてよ。)
(セディがどこでそれを知ったかはしらないが、
その真実を嗅ぎつけ、破れたページを探そうとしている。
魔導の原理を知るために……。)
(そう考えればある程度説明はつく。
ってことは何だ?
俺って、とんでもない伝説のシロモノを手にしているんじゃ……?)
(魔導の真実が俺の手の中にある。
……だが一体、誰がこれを書いたんだ?こんな謎解きみたいな文章を?
そして、誰が隠したんだ?旧文明時代に? 誰が、何のために……?)
(このままセリフォスに帰るつもりだったが……このままじゃ中途半端すぎる。
俺の中に真実がある。
そして、セディは恐らくそれ以上の真実を知っている。
(!!! もしかすると奴は……ノート本体を持っているのか!?
いや、可能性は否定できない。
……気になるところだ。)
(まずは、この古代世界語で記された一枚の紙を解読する必要がありそうだな。
全てはそれからだ。
たった一枚の紙切れかも知れないけど、内容を把握しないことには何も始まらない。)
(……よし、黙っていよう。俺が見つけたこの紙の事は。)