『真実の継承者(前編)』
フェーゴ共和国 氷都シェザ シェトランド海に面した大陸最南端の都市、シェザ。 夏場でも涼しく、万年氷河が残る気候ゆえに『氷都シェザ』と呼ばれることが多い。 それでも人類が居住しているのは、大陸有数の漁港の一つであるがため。 東から西への海流の激しさ故に、遠い海から珍しい魚が流されてくる事も少なくないという。 |
「おはよう、セディ……ふぁ〜あ。」
「ふっ。眠そうだな、ウィリアム。」
「夜更かし? パズルでもやってたの?」
「ふっ。何故パズル?」
「昔オーロラおねぇちゃんと二人でクロスワードやっててね、
どうしても最後の1つがわからなくてー。
考えても考えても分からなくて、結局その日生まれて初めて徹夜しちゃった☆」
「ふっ。愚か極まりなき。」
「あ、ひどーいっ!そーゆーこというわけー?
ぷんぷん。
それで、結局夜遅くまで何やってたの?」
「まぁパズルみたいなものと言えばパズルみたいなものかもな。
……ってローラ、何気なく会話に参加しているけどさ、
お前、どうしてこんな朝早くからここにいるんだ?」
「だってあたしの家、この宿屋と同じ町内だもん。」
「ふっ。違う宿屋を選ぶべきだったな。」
「それよりセディ、お前はこれからどうするんだ?しばらくここに滞在するのか?」
「ふっ。あの紙が手に入った以上、ここに留まる理由もあるまい。
他の2枚の紙の行方は不明。在処すら分からぬ。
とすれば、エンディルと対峙するために北上する。」
「北上ってぇと……どの辺りに行くんだ?」
「シルバニア公国。恐らくエンディルはそこに攻めてくるはずだ。」
「えー?どうしてそんなことがわかるのー?」
「ふっ。わかるからわかるのだ。
この肉体を手にしてからは自然と察することが出来るようになってな。
……所詮言っても分かるまい。」
「???」
「ふっ。それより貴様はどうするのだ、ウィリアム。
目的通り魔導原本の存在を確かめたのだろう。
セリフォスに戻るのか?」
「とりあえずまだ考えていない。
このまま帰ってもいいんだけどよ、何か釈然としないものがあるんだよな。
……まぁどうせ帰る方角は同じだから、シルバニアまでは付き合うよ。」
「ふっ。わかった。好きにするがいい。」
「……ねえ、あたしには聞いてくれないの?」
「ふっ。貴様に聞いてどうする。シルバニアまで来るとでもいうのか?」
「うんっ。」
「………………おい、なんて言った、今?正気か?」
「だってなんとなく面白そうなんだもん。」
「それだけか?」
「えへへー。」
「………………。」
「セディの話を信じれば、エンディルの奴らが攻めてくるっていうんだぜ?」
「だってエンディルを一度ぐらい見てみたいじゃない。」
「ふっ。本当にそれだけの理由か?」
「えへへー、まだあるけど内緒。」
「ふっ。悪いことは言わん。子供の1人旅は危険だからやめておけ。」
「あー、またそうやって子供扱いするーっ!」
「ふっ。子供を子供と言って何が悪い。」
「いいもん。そんなこと言うなら無理にでもついていってやる。」
「ふっ。
わかったわかった。そういうことにしておいてやろう。
……さてと、ウィリアム。食べたら行くぞ。」
「おう。」
「はーい。」
「……ふっ。
待てローラ。
貴様、本気でついてくる気か?」