『真実の継承者(前編)』
セレリア公国 首都セントラル ヴェール地方。シルバニアの南にそう呼ばれる地域がある。 かつて、この地域一体が謎のヴェールに包まれていたことからその名がつけられたという。 いくつもの小国が乱立するこのヴェール地方。 このセレリア公国も、この地域に生まれた新興国の一つである。 |
「ふっ。
ウィリアム、起きろ。
馬車の乗り換え地点だ。」
「ん?あ、ああ。わりぃ。また寝ちまったみたいだな。」
「ここんところずっと寝不足みたいね。目が真っ赤ぁ。」
「ああ、ちょっと、な。
……ふぁ〜あ。
それでセディ、ここは?」
「ふっ。
セレリア公国の首都セントラルだ。
シルバニアに行くためにはここで馬車を乗り継がないとならないからな。」
「ああ、分水嶺……いや、分水界を迂回するというわけか。」
「えー?なんで?ほら、地図の上をこうまっすぐ行けばいいじゃない。」
「ふっ。地図の上では、な。」
「でもほら、山があるだろ?」
「山?」
「ふっ。南東の方角を見て見ろ。山脈が肉眼ではっきりと見えるはずだ。」
「んー……高さ10センチぐらいのあの山?」
「ふっ。遠近法を無視するな。」
「まぁ、あの山を越えるよりは迂回した方が早いってことさ。」
「で、どの馬車に乗るの?」
「あぁ、あそこにシルバニア行きはこちらって書いてあるぜ。
……ってローラ、ひょっとしてお前さ、本気で一緒にシルバニアまで来るのか?
いい加減そろそろ帰らないと親が心配してるぞ?」
「ふっ。
ウィリアムの言う通りだ。いい加減帰ったらどうだ。
ここからなら定期馬車一本で帰れるぞ。」
「書き置き残してきたもーん。大丈夫ー。」
「ふっ。帰りの切符運賃ぐらい出してやる。ほら、とっとと帰れ。」
「ひどいわっ!私を捨てるのねっ!」
「ふっ。捨てるも何も貴様が勝手についてきたんだろうが。」
「えー?じゃあなに?ここから一人で危険な道を帰れっていうの?」
「ふっ。その通り。貴様がどうなろうと私の知ったことではない。」
「ひっどーい。」
「ローラ、お前の負け。」
「ふーん、いーもーん。また勝手についていくから。」
「……セディ、いいのか?」
「ふっ。構わん。好きにしろ。」
「……なぁ、
そろそろ教えてくれてもいいんじゃないのか?
俺達について来る本当の理由を。」
「白馬の騎士探し。」
「は?」
「私の前に白馬の騎士が来るのを待っているのなんて消極的じゃない?
だからこっちから探しに行こうと思って☆
……って、どうしたの?冴えない顔して?」
「いや、知り合いに一人、騎士がいたなぁと。」
(そういえばマリーの奴、今頃何してるかな……。
……そうさ。きっとまた、出会えるはずさ。)
「ふっ。あの騎士か。……会って後悔しなければいいがな。」
「え?どういう意味?
……???
二人とも様子が変ー。」
「ふっ。
さぁな。
……シルバニア行きの馬車の発車が近いみたいだな、急いで乗るぞ。」
「おう!」
「あ、ちょっとまってよぉっ!
どうして二人して遠い目をしているのぉ?
ねえ、ねぇってばぁっ!」