『真実の継承者(前編)』
シルバニア公国 首都シルバニア シルバニア公国がかつての宗主国、ブランドブレイ王国より分離したのが大陸歴179年。 その後の都市建設を経て、正式にこのシルバニアが首都となったのが大陸歴183年。 かつて存在したというラファエル王国の首都シャロンを模して作られた、白銀の都シルバニア。 魔導金属製の目映い城壁が、都市を囲むように荘厳とそびえ立っている。 |
「へぇ、ここがシルバニア公国……ふぅーん。」
「ふっ。そんなにきょろきょろしていると田舎者だと言っているのとかわらんぞ。」
「ぶーぶー。シェザは田舎じゃないもーん。
あれ?
今日は目が充血していないね。睡眠不足はなおったの?」
「ああ。お陰で睡眠不足は解消されてね。」
(一応、解読は終わったからな……。
確かに魔導の原理が記されていた。)
(それも、予想以上のことが書かれていたとはな。
今まで明らかにされていない魔導の本当の仕組み、
そして魔導を編み出す精密な計算方法も……。)
「え?……ウィルっ!!!」
「マ、マリーっ!? どうしてここにっ!?」
「外交任務でシルバニア公国に派遣されたんです。
まさか貴方にここで会えるだなんて……。
……ウィルっ!」
「マリー……俺も、ずっと会いたかった。
あれから後悔していたんだ。
もう離したくない、お前を。」
「私も、気づいたんです……貴方と離れてから、自分の気持ちに。
おかしいですよね、貴方とは少しの間行動を共にしただけなのに、
このような感情を抱いてしまうなんて。」
「おかしくなんかない。俺だってそうなんだから。
気が付いたら、マリーに対する気持ちが大きくなっていたんだ。
もう、お前以外に何も考えられない。」
「愛してます、ウィル。
もう迷わない。どこまでもついていきます。
仕事よりも大事な人をみつけてしまいましたから……。」
「俺もだ、マリー。」
「……うっわー。
ねーねー、おっちゃん。
あの二人抱き合ってるー。」
「ふっ。公衆の面前という事を完璧に忘れているようだな。」
「うわー、うわー。」
「ふっ。その程度で動揺しているようではまだまだ子供だな。」
「あたしもう子供じゃないもーん。」
「ふっ。わかったわかった。そういうことにしておいてやろう。」
「あー、なんか納得いかないその言い方ー。ぶーぶーぶー。」
「ふっ。とにかくウィリアム、周囲の目もあることだ、その辺にしてはどうかな?」
「……そ、そうだったな。すまん、セディ。」
「ご、ごめんなさい……人前でこんなこと……」
「ふっ。若気の至りというやつだろう。気にするな。」
「おっちゃん、そんなこと言うからおっちゃんくさいんだってば。」
「ふっ。だからセディ様と呼びたまえ。」
「や。」
「……ふっ。どうやら一度痛い目を見なければ分からぬようだな。」
「セディ様☆」
「ふっ。よろしい。」
「……こ、この男は……。」
「ふっ。
それよりウィリアム。貴様はこれからどうするのだ?
ここからセリフォスに帰るのか?」
「いや。
マリーを連れてそうしたいところなんだが……。
その前にセディ、お前はどうする気なんだ?」
(確かにこのままマリーを連れてセリフォスの実家に帰ることもできる。
だが、それは納得がいかない。
セディがシェザで拾得した魔導原本をどうするのかが気になる……。)
(危険な賭けかも知れないが、せめてそれだけ見届けてから帰りたい。
『危険ならば手を出すな。命の方が大切だからな。』
……じっちゃん、ちょっとその約束、破らせてもらうぜ。)
「ふっ。このシルバニアで……エンディルと戦う。」
「正気かっ!?どうやって!?」
「ふっ。その為の魔導原本だ。」
「一人で、か?」
「騎士団がいなければそれしかあるまい。」
「なぁ、セディ。今このシルバニア公国にはどれだけの兵がいるんだ?」
「ふっ。各都市ごとの守備兵を除けば、自由に行軍できる軍隊は皆無だ。
基本的に軍事行動があるときは宗主国のブランドブレイ王国から騎士団が
派遣される仕組みになっている。」
「ブランドブレイの騎士団ねぇ。」
「騎士、格好いい響きじゃないっ! 何か不満なの?」
「いや、なんとなくな。
なんとなく嫌な予感がするんだけどさ。
その騎士団とやらは、今この国に滞在しているのか?」
「ふっ。その通り。7月騎士団が滞在している。」
「……俺、昔っから嫌な予感だけはあたるんだよな。」
「勘の虫が騒ぐっていうやつだねでもどんな虫なんだろう勘の虫って
虫っていうからには足が六本で触覚があってあーとりあえずこの時点で
虫嫌いの木枯吹雪は逃げるであろうことが確定したね。でも負けない。」
「……やっぱりお前か、サード。」
「あら、お久しぶりですわ。」
「誰、この人?」
「ああ麗しの姫君よまるで貴方の金髪は私の情熱をかき立てる炎が如く
輝いている……かどうかは別としてとりあえずまだ若いお嬢さんだうん
でもなんとなく育った環境はあまり上品な家庭ではない気がする。」
「よけーなお世話ーっ!なんなのよこの変なひとーっ!?」
「でも是非とも俺のマイプリンセスになってくれないか。」
「俺のマイプリンセスって文法変じゃないのか?おい?」
「え、え、えっと、」
「なんて言ったら格好良いんだろうね。」
「……脅かさないでよーっ!一瞬本気にしかけたでしょーっ!」
「本気にしてくれて構わないよ。」
「…………え?」
「なんて言ったらもっと格好良いんだろうねぇ。でも負けない。」
「……なんなのよこの人はーっ!?」
「ふっ。こういう奴だ。諦めろ。」
「黙っていればまともに見えるんだけどなぁ。」
「知ってる?類は友を呼ぶという言葉を?」
「……お前にだけは言われたくなかったな、サード。」
「で、なんなのよ、この人?」
「ブランドブレイ王国7月騎士団騎士団長サード=ノーベル。」
「ふっ。よかったではないか。白馬の騎士がいて。」
「こ、こんなのいやああああ。」