Forbidden Palace Library #W01 『真実の継承者(前編)』

『真実の継承者(前編)』




シルバニア公国
首都シルバニア



シルバニア公国がかつての宗主国、ブランドブレイ王国より分離したのが大陸歴179年。
その後の都市建設を経て、正式にこのシルバニアが首都となったのが大陸歴183年。

かつて存在したというラファエル王国の首都シャロンを模して作られた、白銀の都シルバニア。
魔導金属製の目映い城壁が、都市を囲むように荘厳とそびえ立っている。

ローラ 「へぇ、ここがシルバニア公国……ふぅーん。」

セディ 「ふっ。そんなにきょろきょろしていると田舎者だと言っているのとかわらんぞ。」

ローラ 「ぶーぶー。シェザは田舎じゃないもーん。
 あれ?
 今日は目が充血していないね。睡眠不足はなおったの?」

ウィリアム 「ああ。お陰で睡眠不足は解消されてね。」
(一応、解読は終わったからな……。
 確かに魔導の原理が記されていた。)

ウィリアム (それも、予想以上のことが書かれていたとはな。
 今まで明らかにされていない魔導の本当の仕組み、
 そして魔導を編み出す精密な計算方法も……。)

マリー 「え?……ウィルっ!!!」

ウィリアム 「マ、マリーっ!? どうしてここにっ!?」

マリー 「外交任務でシルバニア公国に派遣されたんです。
 まさか貴方にここで会えるだなんて……。
 ……ウィルっ!」


ぎゅっ


ウィリアム 「マリー……俺も、ずっと会いたかった。
 あれから後悔していたんだ。
 もう離したくない、お前を。」

マリー 「私も、気づいたんです……貴方と離れてから、自分の気持ちに。
 おかしいですよね、貴方とは少しの間行動を共にしただけなのに、
 このような感情を抱いてしまうなんて。」

ウィリアム 「おかしくなんかない。俺だってそうなんだから。
 気が付いたら、マリーに対する気持ちが大きくなっていたんだ。
 もう、お前以外に何も考えられない。」

マリー 「愛してます、ウィル。
 もう迷わない。どこまでもついていきます。
 仕事よりも大事な人をみつけてしまいましたから……。」

ウィリアム 「俺もだ、マリー。」

ローラ 「……うっわー。
 ねーねー、おっちゃん。
 あの二人抱き合ってるー。」

セディ 「ふっ。公衆の面前という事を完璧に忘れているようだな。」

ローラ 「うわー、うわー。」

セディ 「ふっ。その程度で動揺しているようではまだまだ子供だな。」

ローラ 「あたしもう子供じゃないもーん。」

セディ 「ふっ。わかったわかった。そういうことにしておいてやろう。」

ローラ 「あー、なんか納得いかないその言い方ー。ぶーぶーぶー。」

セディ 「ふっ。とにかくウィリアム、周囲の目もあることだ、その辺にしてはどうかな?」

ウィリアム 「……そ、そうだったな。すまん、セディ。」

マリー 「ご、ごめんなさい……人前でこんなこと……」

セディ 「ふっ。若気の至りというやつだろう。気にするな。」

ローラ 「おっちゃん、そんなこと言うからおっちゃんくさいんだってば。」

セディ 「ふっ。だからセディ様と呼びたまえ。」

ローラ 「や。」

セディ 「……ふっ。どうやら一度痛い目を見なければ分からぬようだな。」

ローラ 「セディ様☆」

セディ 「ふっ。よろしい。」

ウィリアム 「……こ、この男は……。」

セディ 「ふっ。
 それよりウィリアム。貴様はこれからどうするのだ?
 ここからセリフォスに帰るのか?」

ウィリアム 「いや。
 マリーを連れてそうしたいところなんだが……。
 その前にセディ、お前はどうする気なんだ?」

ウィリアム (確かにこのままマリーを連れてセリフォスの実家に帰ることもできる。
 だが、それは納得がいかない。
 セディがシェザで拾得した魔導原本をどうするのかが気になる……。)

ウィリアム (危険な賭けかも知れないが、せめてそれだけ見届けてから帰りたい。
 『危険ならば手を出すな。命の方が大切だからな。』
 ……じっちゃん、ちょっとその約束、破らせてもらうぜ。)

セディ 「ふっ。このシルバニアで……エンディルと戦う。」

ウィリアム 「正気かっ!?どうやって!?」

セディ 「ふっ。その為の魔導原本だ。」

ウィリアム 「一人で、か?」

セディ 「騎士団がいなければそれしかあるまい。」

ウィリアム 「なぁ、セディ。今このシルバニア公国にはどれだけの兵がいるんだ?」

セディ 「ふっ。各都市ごとの守備兵を除けば、自由に行軍できる軍隊は皆無だ。
 基本的に軍事行動があるときは宗主国のブランドブレイ王国から騎士団が
 派遣される仕組みになっている。」

ウィリアム 「ブランドブレイの騎士団ねぇ。」

ローラ 「騎士、格好いい響きじゃないっ! 何か不満なの?」

ウィリアム 「いや、なんとなくな。
 なんとなく嫌な予感がするんだけどさ。
 その騎士団とやらは、今この国に滞在しているのか?」

セディ 「ふっ。その通り。7月騎士団が滞在している。」

ウィリアム 「……俺、昔っから嫌な予感だけはあたるんだよな。」

サード 「勘の虫が騒ぐっていうやつだねでもどんな虫なんだろう勘の虫って
 虫っていうからには足が六本で触覚があってあーとりあえずこの時点で
 虫嫌いの木枯吹雪は逃げるであろうことが確定したね。でも負けない。」

ウィリアム 「……やっぱりお前か、サード。」

マリー 「あら、お久しぶりですわ。」

ローラ 「誰、この人?」

サード 「ああ麗しの姫君よまるで貴方の金髪は私の情熱をかき立てる炎が如く
 輝いている……かどうかは別としてとりあえずまだ若いお嬢さんだうん
 でもなんとなく育った環境はあまり上品な家庭ではない気がする。」

ローラ 「よけーなお世話ーっ!なんなのよこの変なひとーっ!?」

サード 「でも是非とも俺のマイプリンセスになってくれないか。」

ウィリアム 「俺のマイプリンセスって文法変じゃないのか?おい?」

ローラ 「え、え、えっと、」

サード 「なんて言ったら格好良いんだろうね。」

ローラ 「……脅かさないでよーっ!一瞬本気にしかけたでしょーっ!」

サード 「本気にしてくれて構わないよ。」

ローラ 「…………え?」

サード 「なんて言ったらもっと格好良いんだろうねぇ。でも負けない。」

ローラ 「……なんなのよこの人はーっ!?」

セディ 「ふっ。こういう奴だ。諦めろ。」

ウィリアム 「黙っていればまともに見えるんだけどなぁ。」

サード 「知ってる?類は友を呼ぶという言葉を?」

ウィリアム 「……お前にだけは言われたくなかったな、サード。」

ローラ 「で、なんなのよ、この人?」

サード 「ブランドブレイ王国7月騎士団騎士団長サード=ノーベル。」

セディ 「ふっ。よかったではないか。白馬の騎士がいて。」

ローラ 「こ、こんなのいやああああ。」


▽……。



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