『真実の継承者(前編)』
シルバニア公国 首都シルバニア シルバニア公国がかつての宗主国、ブランドブレイ王国より分離したのが大陸歴179年。 その後の都市建設を経て、正式にこのシルバニアが首都となったのが大陸歴183年。 かつて存在したというラファエル王国の首都シャロンを模して作られた、白銀の都シルバニア。 魔導金属製の目映い城壁が、都市を囲むように荘厳とそびえ立っている。 |
「こんな夜遅くにすまない。」
「いや、気にしない気にしない。
……ここだ。
入ってくれ」
「……この部屋は?」
「いまはまだ使われていない。
いずれ公国軍が創設された時に、作戦会議室となるはずの部屋だ。
ま、その時がいつになるのか私にも分からないがね。」
「ああ、それで安全な場所だったね。
そこに据え付けの本棚があるだろう?
その壁の裏側に、やはりまだ使われていない隠し部屋があるんだよ。」
「良いのか?俺にそんなこと教えて?」
「どうしても隠したい物があるって言ってきたのは君だろう?
いいかい、私が本棚の一番右上を押すから、
同時に本棚の一番下の段の奥を押すんだ。」
「おう。」
「3、2、1、!」
「……すげぇ。
こんな仕掛けが……。
確かにこの小部屋なら安全そうだな。」
「ウィリアム君。
一つ聞かせてくれないか?
君がそうまでして隠そうとするその紙は一体……」
「……すまない。存在によって歴史を揺るがす物、だとしか言えないんだ。
知ったら今度は貴方が、公爵様が危険にさらされるかも知れない。
黙ってこれを封印してくれなんて都合良すぎるのはわかっている。」
「君の祖父には図書館を増設するときにお世話になったからな。
いや、むしろ君の祖父の力添えあってこそだ。
そのお陰でこの国にも大図書館がもうすぐ完成しようとしている。」
「我が儘を言ってすまない、公爵様。」
「気にしないでくれ、ウィリアム君。
この程度で良ければいくらでも恩を返させて貰うよ。
いや、それでも返しきれないぐらいだよ。」
「……公爵様、このことは内密にしてくれ。」
(嫌な予感がするんだ。今までにないぐらいとてつもなく嫌な予感が。
そして俺の嫌な予感は、残念なことに外れたことがない……。)
「承知したよ、ウィリアム君。
それにしても立派に大きくなったなぁ。ま、10年も経てば大きくもなるか。
さ、用も済んだことだ。巡回兵に見つからないうちに戻ろう。」
(……そういえば。
シェザでローラが妙なことを言っていたな。
『おっちゃん、10年前と全然かわってないー。』)
(もしそれが本当だとするならば……奴は一体何歳なんだ?)