『真実の継承者(前編)』
シルバニア公国 メーヴェルヴァーゲン街道 ブランドブレイ王国とシルバニア公国を結ぶ重要な街道の一つ、メーヴェルヴァーゲン街道。 海と森の間を抜けるように、若干のカーブと共に南北に延びている。 開拓時代に移民達が踏み固めたとも言われているこの街道、あちこちで石畳による舗装工事が着々と進められている。 だが、それはまだほんの一部の区間であり、大部分は未舗装のまま残された状態になっている。 |
「ふっ。また寝不足か?ウィリアム。」
「あ、ああ。ちょっと、な。」
「どうせいつもの事でしょー。
……ってあれ?
どうしてマリーが顔赤くするの?」
「い、いえ、なんでもありませんわ。」
「セディ、本当にここにエンディルが現れるのか?」
「ふっ。空間の不安定さからいけばほぼ間違いない。」
「よし、じゃあ騎士団を展開させよう。
でも展開っていうとなんか数学を思い出しちゃうなぁ。
2a分の−b±ルートb二乗マイナス4ac……」
「思い出すなよ。
っていうか疑問なんだけどよ、
騎士団って他人の推測で動いていいのか?おい?」
「いいんじゃないの?よくわかんないから騎士団長に聞いてみて。」
「だからお前に聞いているんだよ、サード。」
「ウィル、貴方の負けのような気がしますわ。」
「……まともに質問した俺が馬鹿だったみたいだな。」
「それにしてもメーヴェルヴァーゲン街道って変な名前だよねー。」
「昔々、メーヴェルさんというそれは美しい女性がここに住んでいました。
でもある日、その家は本人の知らないところで売りに出されてしまったのです。
それも破格の安さで。」
「え?ヴァーゲンってそのバーゲンだったの?」
「だったらどうしようかなぁと。」
「要するに嘘なんですね?」
「はい。」
「即答するなよ、おい。」
「一瞬でも信じようとしてしまいましたわ。」
「ふっ。家具運搬車街道、とある言語でそういう意味だ。」
「え?」
「かつてこの地方がまだ森に覆われていた頃、
人々は新天地を求めて家具と共にこの地へと移住してきた。
それがこの街道名の由来だ。」
「セディ、何故お前はそんなことを知っているんだ?」
「あやしいー。嘘なんじゃないのー?」
「ふっ。そう思ったら別に信じなくてもよい。」
「あ、なんかその言い方いじわるー。
だからおっちゃん呼ばわりされちゃうのよ。
わかってる?」
「ふっ。そう呼ぶのは貴様一人だろうが。」
「おっちゃん。」
「……おっちゃん。」
「ふっ。そうか。貴様ら二人も血の海を見たいというか。」
「はっはっは、冗談じゃないかセディ。やだなぁ。」
「!?」
「静かにっ!」
「この音は……」
「ふっ。どうやら予想は的中したようだな。」
「!!! 7月騎士団、総員戦闘準備!
奴らを一歩たりともシルバニアに近づけるなっ!!!
ローラ、側を離れないで。危険だから。俺が守る。いいな?」
「え?
あ、うん。
……サードって……真面目な一面もあるんだ……。」
「なんてね。一度ぐらい、そういう台詞言ってみたいねえ。
なにはともあれ危険だから離れないでね。
足下うろうろされると困るし。」
「……前言撤回。」
「!!!」
「どうした、セディ!?」
「……森の中だ。」
「え?」
「森の中に何かが転移してくる。」
「おい、セディっ!!! ……ちっ!」
「ウィル!?」
「マリー、お前はローラと一緒にサードの側にいろ。いいな!」
「ウィル……」