『真実の継承者(前編)』
シルバニア公国 メーヴェルヴァーゲン街道 ブランドブレイ王国とシルバニア公国を結ぶ重要な街道の一つ、メーヴェルヴァーゲン街道。 海と森の間を抜けるように、若干のカーブと共に南北に延びている。 開拓時代に移民達が踏み固めたとも言われているこの街道、あちこちで石畳による舗装工事が着々と進められている。 だが、それはまだほんの一部の区間であり、大部分は未舗装のまま残された状態になっている。 |
「ふっ。ここまで来れば、ひとまず体勢を立て直す時間は稼げそうだな。」
「……なぁ、どうして奴らには通常の魔導が効かないんだ?」
「ふっ。
奴らの行使する術そのものが、我々の魔導よりも上位にあるということだろう。
……まずいな。さすがにこのままでは勝ち目がない。」
「俺たちの魔導……。
つまり、恒星からの魔力を月で反射させずに、
直接その力を恒星から魔力を導き出せば……」
「……待て、アシスト。何故その事を知っている?」
「???」
「今、『太陽からの魔力』と言わずに『恒星からの魔力』と言ったな?
何故、貴様ごときが魔導の真の原理を知っている?
学校では魔力は太陽から発せられるものだと教えているはずだが?」
「ああ、確かに学校では、な。
でも学校で教わることだけが真実じゃない。
そうだろ?」
「魔力とは、本来は太陽という名の恒星から発せられたもの。
それを月というクッション材を挟むことにより人間にも扱えるレベルまで
威力を軽減している。それが魔導の本当の原理。」
「ふっ。そこまで知っているというのか。
まさか太陽から直接魔力を導くなどというのではあるまいな?
やめておけ。歴史がその不可能を証明している。」
「太陽から直接魔力を引き出すなんてことは考えちゃいない。
……俺が読んだ知識が正しければの話だが、
魔力は距離に比例してその波長を弱める。」
「読んだ、だと?」
「もしもそれが本当だとすれば、だ。
星系をも越える超長距離を経ることで、月という緩衝材を間に挟むことなく
無理なく人間が扱える程度の魔力に軽減することが可能かもしれない。」
「つまり、太陽のように至近距離の恒星ではなく、
もっと遠くの恒星、例えば南天の四つ星の一つから魔力を導こうとするならば、
もしかすると許容量を超えない範囲で、従来以上の魔力を手にする事が……」
「ふっ。見事だ、素直に誉めてやろう。
だが何故貴様がそのようなことを知っている?
……まさか貴様、本の一部を手にしたと……!?」
「!!! 足音が! 来たぞっ!!!」
「作戦会議は終わったか?」
「ゼルイリアス……!!!」
「ふっ。話の続きはこれを片づけてからだ。」
「……別の恒星から魔力……試してみるか。」
「ふっ。待て、そう急ぐな。
……私に一つ策がある。
万が一それが通用しなかったときは、その技を試してみるがいい。」
「あ、ああ。わかった。」
「なにごちゃごちゃ言っている?
ハラキリの覚悟が出来たのか?
あるいは、
この世界の人類を代表して、素直に降伏するのか?」