『真実の継承者(前編)』
シルバニア公国 メーヴェルヴァーゲン街道 ブランドブレイ王国とシルバニア公国を結ぶ重要な街道の一つ、メーヴェルヴァーゲン街道。 海と森の間を抜けるように、若干のカーブと共に南北に延びている。 開拓時代に移民達が踏み固めたとも言われているこの街道、あちこちで石畳による舗装工事が着々と進められている。 だが、それはまだほんの一部の区間であり、大部分は未舗装のまま残された状態になっている。 |
「なにごちゃごちゃ言っている?
覚悟出来たのか?
それとも、
素直に降伏するのか?」
「ふっ。
笑止、それ程度で屈すると思うか。
ガレス・ディ・ゼクトゥレス……」
(何だ?聞いたことのない魔導詠唱……?)
「凝縮せし風よ 欠けろ! スチームイクスプロージョン!!!」
「!?」
「ぐっ!?」
「なんだ?何が起こったんだ?見えなかったぞ?」
「ふっ。大気中の水分を沸騰させ水蒸気爆発を起こしたのだ。
見えなかったのも無理はあるまい。
炎が出ないため、爆発の瞬間を肉眼で捕らえることはほとんど不可能だからな。」
(だが、そんな魔導をどこで?一般には知られていない魔導だ。
それも、おそらく禁呪レベルの威力を持つ魔導……。
もしかして、セディの持つ魔導原本に書かれている技なのか……?)
「……さすがに今のはこたえたな。」
「!?」
「だが、所詮は月を介した魔力。その程度しか威力は……」
(……やるしかない。)
「ふっ。効いていないということか。」
「……南天に輝けし4つ星が1つ、西星ロウクスよ、俺に力を。」
(思い出せ。初等学校で初めて魔導を習ったときのことを。
1、『リード・フォース』、掌に理力を導き、)
「ウィリアム!」
「セディ、下がっててくれ。」
(2、『インクルード』、理力を解放した掌に魔力を含み、)
「メレルラン・リ・ネ・レ……」
「今のでお前らの魔導では無駄だと分かったはずだが?まだ試す気か?」
「恒星ロウクスに我願う 風よ、渦となりて全てを切り裂けっ!!!」
(3、『イーミット』、そして、発動させるっ!!!)
「トルネードっ!!!!」
「なにっ!?」
「ふっ。木々が……岩が……空に舞うだとっ!?馬鹿なっ!!??」
「おおおおおおおおっ!!!!!」
「ぐぁぁあああああああああああっ!!!」
「…………ふっ。なんなのだ、この桁外れの威力は。
これがウィリアムの理力なのか?
それとも西星ロウクスの魔力なのか?あるいはその両方……。」
「げほっ……げほっ。
……はぁ……はぁ……。
やった……か?」
「…………いや、さすがに……応えたな、今のは。」
「まだ……生きていやがる……。」
「青年よ、貴様の腕は認めよう。
だが、その体では魔力負荷が大きすぎたようだな。
それだけ吐血しているのであれば、もう満足に戦えまい。
いや、自由に動くことすらままなるまい。」
「……そうみてぇだな。残念だけどよ。」
(ダメだ……体が……きしんでいる。立っているのがやっとだ。
もう攻撃に抵抗することすら出来そうにない……。)
「だが、どうやら満足に戦えないのはお前だけではないみたいだな。」
「ふっ。どういうことだ?」
「……我の鎧が、貫通されるとはな。
予想外だ。いや、初めての事だ。
我一人の元、制圧できるほどこの世界の魔導文明は脆くはなかったようだな。
300年前、フィリスディールが負けたのも納得がいく。」
「フィリスディール?」
「ふっ。ラファエル王国崩壊のきっかけとなった青き肌を持つものの名だ。」
「……だとすれば、
バルセザリアール様の手を煩わせぬ為にも、
我ら人の限界を超えし者、いや、人として最終進化を遂げし者、
全力を以てまずこの世界の制圧にあたる必要がありそうだな。」
「ちょっと待てっ!お前達にまだ仲間がいるのかっ!?」
「……一端、引き上げるしかないな。
再び世界の扉が開くとき……即ち300年後、
我は他の仲間と共に再び征服しに来る。
他の世界の征服は後回しだ。この世界を優先させる。」
「セディ、と言ったな。
奴の肉体を手にしているならば、300年後に再び会うこともあるかもしれないな。
楽しみにしているぞ。くくっ。
FE KVWE... !」
「消えた……。」
「ふっ。どうやらエンディル兵達も去ったようだな。戦の音が消えた。」
「……終わった、のか?」