『真実の継承者(前編)』
シルバニア公国 メーヴェルヴァーゲン街道 ブランドブレイ王国とシルバニア公国を結ぶ重要な街道の一つ、メーヴェルヴァーゲン街道。 海と森の間を抜けるように、若干のカーブと共に南北に延びている。 開拓時代に移民達が踏み固めたとも言われているこの街道、あちこちで石畳による舗装工事が着々と進められている。 だが、それはまだほんの一部の区間であり、大部分は未舗装のまま残された状態になっている。 |
「ふっ。辛うじてだが、私たちの勝利だ。」
「……300年後、奴はまた来ると言った。
その時こそは……俺達、この世界の、この大陸の人間は……
決着を付ける事ができるのだろうか?」
「ふっ。それは貴様が心配するような事ではない。
例え長生きした所で、300年も生きることは出来まい。
そう、普通の人間にはな。」
「……さっき、ゼルイリアスがこう言ってた。
『奴の肉体を手にしているならば、再び会うこともあるかもしれんな』って。
一体あれはどういう意味なんだ?
「ふっ。それよりも私の質問に先に答えて貰おう。
ウィリアム、貴様はさきほど知識を『読んだ』と言ったな?
もしやとは思うが……本の一部を読んだというのか?」
「本?」
「魔導原本と呼ばれる一冊の本から抜け落ちた、数枚の紙切れ。」
「ああ、あれか。
いや、ついこの間、解読に成功したばかりだ。
それがどうしたんだ?」
「……ふっ、なるほど。
旅のあいだずっと寝不足気味だったのはそういう訳か。
その破れたページはどこにある、今持っているのか?」
「持ってない。」
「ではどこに隠した?」
「さぁ、な。
そんなことどうでもいいじゃねぇか。
とにかく、これで戦いは終わったんだから……。」
「いや、まだだ。」
「え?」
「まだ、貴様が残っている。」
「!?」
「アウ・クレイスト・リ・ハリアス
儚き肉塊よ砂塵へ帰れ
ディスインテグレート!」
「なっ!?」
「原子分解だとっ!?セディっ!?」
「以前に言ったはずだ。
真実を知る者は私一人で十分なのだ、とな。
よって、貴様には消えてもらう。」
「てめぇっ!……裏切ったなっ!!!」
「ふっ。裏切り?人聞きの悪いことを言うな。
警戒を怠った貴様が悪いのだ。
そして、破れたページを素直に渡さぬ貴様が悪いのだ。」
「……ぐっ……てめぇには……絶対在処は教えねぇ……。」
「ふっ。ならば探せば済むこと。あの本は我が師の物なのだ。
そして弟子であった私に譲られるはずだった本。
だが、我が師は私に託してはくれなかった。」
「なん……だと?」
「私は探し求めた。そして遂に、あの帽子を被り本を手にした男を見つけだした。
奴と戦い、そして肉体を乗っ取り、年老いることのないこの体を私は手にした。
もっとも帽子と本の大半は手に入らなかったが、な。」
「セディ……お前は……何者なんだっ!?」
「そして私は、人を越えることが出来たのだ。
いや、人として最終進化を遂げた肉体を手に入れたと言うべきか。
肉体と魂の融合にしばし時間が掛かったがな。」
「何をわけのわからねえ事を言っているんだよっ!?」
「ふっ。恨むのなら、自分の無力さを恨むのだな。」
「……きた……ねぇぞっ!」
「ふっ。汚いもなにもない。
如何なる手段を用いようとも、戦いは勝ちが全てだ。
負けては何にもならんからな。」
「なん……だと……てめぇ……よくも……。」
「ふっ。貴様のせいでまた探す手間が増えてしまったが、まぁよい。
いずれ、魔導原本より失われた7枚の紙は全て私の物になるのだ。
せいぜい息絶えるまでの残り数分、己が無力さを後悔しているんだな。」
「セディィィィっ!てめぇぇぇぇっ!!!!」
「ふっ。さらばだ。もう会うこともあるまい。」
「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」