『真実の継承者(後編)』
シルバニア王国 シルバニアの森 王都の周囲に生い茂る大森林。 殆どが針葉樹林で覆われたこの森の一角に、一枚の石版が安置されている。 それは、『ウィリアム=アシスト』という名の先人のための墓……。 滅多に人も通らない街道はずれの森の中でその墓碑は、夜の闇をゆりかごとして静かに眠り続けている。 まるで、時に忘れられたかのように。 |
「その木陰に一枚の石版が置かれているのが見えるか?」
「……ここは……この場所は。」
「ウィリアム=アシスト。君の祖先の眠る場所だ。
もっとも怪奇なことに遺体は衣服ごと灰になっていたようだけれど。
青き民エンディルの殺し方としてはきわめて例外的なケースだな。」
(違う、エンディルに殺されたわけじゃない。
灰燼と化したのはエンディルと戦ったからじゃない。
原子崩壊の魔導で殺されたからだ……奴に。)
「墓碑に何か書いてあるぞ?」
「『大陸歴303-324
ウィリアム=アシスト
戦の真の功労者にして稀代の魔導師。』」
「……若くして、死んだんだな。」
「ああ。
……わざわざ案内してもらってすまねぇな。
どのみち一度、ここには訪れようと思ってたんだ。」
「いや、気に病むことはないさ。
だけどもアシスト君。
その代わりと言ってはなんだが、一つ、頼み事があるんだ。」
「はい?」
「よければ、この国の力になってくれないか?」
「力……?」
「君の目的が何かは分からない。
だがエンディルとの大戦に関わることであれば、
この国と手を結んだ方が君にとっても得ではないかね?」
「……わかった。 ただし条件が一つある。」
「なんだね?」
「作戦会議室奥の隠し部屋に収められた、一枚の紙を俺に返してくれ。」
「承知した。
だが昼間は一般兵士の目があるから無理だ。
今晩遅くに案内しよう。」
「わかった。こっちこそよろしく頼む。」
「よろしく。」
「そうと決まれば城に戻るぞ、
女王陛下がお待ちだ。
アシスト君に説明しなければならない事もあるからな。」