『真実の継承者(後編)』
シルバニア王国 王城3階 作戦会議室 白銀の都、シルバニア。 市街を取り囲む城壁がその色の輝きを持つ事から、こう呼ばれる。 その扇形の中心部には、同じく白銀に染められた王城がそびえている。 |
「なるほど、君がアシスト家の。
おおよその状況は把握した。
後ほど詳しい事は聞くとして、もう一つ質問がある。」
「なんだ?」
「セリフォスに美味しいクッキー屋はあるかね?」
「……は?」
「ボイス副将軍なりの冗談だ。
いや、恐らく本気だとは思うが、聞き流してくれ。
と……そろそろ被害状況報告が届く時間だな。」
「エリーゼ=ラントシュタイナー城壁守備隊長です。入ります。」
「いつも時間にピッタリだな、ラントシュタイナー君は。」
「!?」
「…………? あの、私の顔に何か付いてます?」
「あ、い、いや……目と鼻が……じゃなくて、えーと。」
「紹介しよう。
この都市の城壁守備隊長を務めているエリーゼ=ラントシュタイナー君だ。
そしてこちらはセリフォスから来たウィルバー=アシスト君。訳あってここにいる。」
「はい、以後宜しくお願いいたします、アシストさん。
……では早速、バレンタイン港で起きた先週の戦いについて
詳細な報告書ができあがったようですのでご報告いたします。」
「うむ。」
「まず第1及び第3の師団・副師団長負傷の件ですが、
4名ともゾロディエールと名乗るエンディル側のリーダーから
直接傷を受けていた模様です。」
「尚、4名とも全治には半年程度かかる見込みです。」
「そんなに状況は酷いのか?」
「はい。外傷のみならず、
中には複雑骨折等を負っている者もおります。
リハビリ等の必要性を考慮しても、早急な戦線復帰は困難かと……。」
「欠員を補充するしかありませんね。」
「そう、それだ。
負傷した司令官に代わり、前線で指揮をしていた
大隊長っていうのは、結局誰だったんだ?」
「大隊長のケイン=アークライトという人物と、
同じく大隊長のユリア=ハーシェルという人物の両名が
各々師団を臨時に指揮していたようです。」
「ユリア!?なに、わしの孫か!
うむ、うむ。流石はわしの血を引くだけある、よくやった!
……ところでわしのミルククッキーはどこやったかの?」
「さっき自分でお菓子箱にしまっていたじゃねぇか。ほら、そこの。」
「そうじゃったそうじゃった。
いや、てっきり誰かがつまみ食いでもしたのかと思っての。
失敬失敬。」
「……なあ、本当にこのおっさんがこの国のお偉いさんなのか?」
「一応、な。
厳密には、将軍職はウェルナー将軍以降20年近く空席のままだから
ボイス副将軍が事実上の将軍と言ってもいいだろう。」
「損害状況は?」
「では第一師団からご報告いたします…………。」
「以上でバレンタイン港防衛戦に関する定例報告を終了します。」
「うむ。」
「ではこれで失礼いたします。」
「……あいつ、もしかして……。」