『真実の継承者(後編)』
シルバニア王国 シルバニアの森 王都の周囲に生い茂る大森林。 殆どが針葉樹林で覆われたこの森の一角に、一枚の石版が安置されている。 それは、『ウィリアム=アシスト』という名の先人のための墓……。 滅多に人も通らない街道はずれの森の中でその墓碑は、夜の闇をゆりかごとして静かに眠り続けている。 まるで、時に忘れられたかのように。 |
「……またここに来ていたのか。」
「ああ。借りた鎧を、身体に慣らすための散歩がてら、な。」
「もう真夜中近い。
いつまでもこんな所をうろうろしていないで、
城内に戻ったらどうだ?」
「ああ、もうしばらくしたらそうするよ。」
「風邪を引くぞ。
いや、風邪を引かないタイプの人間だと思われたくないなら、
素直に忠告は受け入れるべきだ。」
「……それよりレナード、聞きたいことがある。
あの臨時師団長のことを先生って呼んでいたよな?
どういう意味だ?」
「先生は先生、そのままだ。
……先生はもともとこの国の人じゃない。
昔、隣国ブランドブレイで騎士団長を務めていた事もある。」
「騎士団長っ!?」
「ああ。退役と同時にこの国に移住してきたらしい。
もっとも今回の戦で人手不足になったため、
師団長に抜擢された、というか就いてもらっている。」
「それで『臨時師団長』って名乗っていたのか。」
「この戦が終わるまで、という期間限定の条件でお願いしているからな。
……それまでは王立軍の士官を相手に情報収集技術の講師をしていた。
私が個人的に最も世話になった先生だ。」
「だから、俺の祖先の事までも、
あれだけの短時間であっという間に
調べることが出来たってわけか。」
「だろうな。
先生がそんな術を一体どこで身につけたのは謎だが。
個人的興味で調べてみたものの、先生の若い頃については記録が何も残っていなかった。」
「残らない記録、か。……なぁ、レナード。
ブランドブレイ7月騎士団のサード=ノーベル。
その男が歴史では先の大戦の英雄として讃えられている。」
「……突然どうしたんだ、そんな英雄譚を持ち出して?」
「だけどその裏で、記録に残らなかった本当の功績者がいたとしたら?」
「あの墓碑……お前の祖先の話か?
もしそれが本当の話だとするならば、
歴史を隠匿した本人に理由を問いただしてみたいものだな。」
(歴史を隠す理由……そういえばこの大陸の古い歴史も残されていない。
人の起源はこの大陸ではないと教えられてきた。
ではどこで人は生まれたんだ? どこから来たんだ?)
(……ラファエル王国時代よりも遙か昔。
今となっては『世界標準語』というその固有名詞にしか断片が残されていない
6大陸レベルでの超巨大文明圏が存在した証。)
(それらの歴史は、何故隠されている?
何故、隠す必要がある……まてよ。
もしかして、もしかして、それらを隠した張本人は……。)
「ああ……!!! レナード!」
「どうした? 突然大きな声をあげて?」
「あっちだ、あれを見ろ!」
「どれだ?どこを指さしている?森の中?」
「そうだ、街道の向こう! 空間が歪んでいるのが分かるか?!」
「!!!」
「木々に遮られてうっすらとしか見えないが、
紫電が空間から放出されている!
あれは青き民エンディルが転移してくる前兆だ!」
「!!! ついに来たか、この街にも!
逃げるぞ、城壁内に!!!
早くっ!!!」