Forbidden Palace Library #W01 『真実の継承者(後編)』

『真実の継承者(後編)』




シルバニア王国
シルバニアの森



王都の周囲に生い茂る大森林。
殆どが針葉樹林で覆われたこの森の一角に、一枚の石版が安置されている。

それは、『ウィリアム=アシスト』という名の先人のための墓……。

滅多に人も通らない街道はずれの森の中でその墓碑は、夜の闇をゆりかごとして静かに眠り続けている。
まるで、時に忘れられたかのように。


・・・・・

レナード 「……またここに来ていたのか。」

ウィルバー 「ああ。借りた鎧を、身体に慣らすための散歩がてら、な。」

レナード 「もう真夜中近い。
 いつまでもこんな所をうろうろしていないで、
 城内に戻ったらどうだ?」

ウィルバー 「ああ、もうしばらくしたらそうするよ。」

レナード 「風邪を引くぞ。
 いや、風邪を引かないタイプの人間だと思われたくないなら、
 素直に忠告は受け入れるべきだ。」

ウィルバー 「……それよりレナード、聞きたいことがある。
 あの臨時師団長のことを先生って呼んでいたよな?
 どういう意味だ?」

レナード 「先生は先生、そのままだ。
 ……先生はもともとこの国の人じゃない。
 昔、隣国ブランドブレイで騎士団長を務めていた事もある。」

ウィルバー 「騎士団長っ!?」

レナード 「ああ。退役と同時にこの国に移住してきたらしい。
 もっとも今回の戦で人手不足になったため、
 師団長に抜擢された、というか就いてもらっている。」

ウィルバー 「それで『臨時師団長』って名乗っていたのか。」

レナード 「この戦が終わるまで、という期間限定の条件でお願いしているからな。
 ……それまでは王立軍の士官を相手に情報収集技術の講師をしていた。
 私が個人的に最も世話になった先生だ。」

ウィルバー 「だから、俺の祖先の事までも、
 あれだけの短時間であっという間に
 調べることが出来たってわけか。」

レナード 「だろうな。
 先生がそんな術を一体どこで身につけたのは謎だが。
 個人的興味で調べてみたものの、先生の若い頃については記録が何も残っていなかった。」

ウィルバー 「残らない記録、か。……なぁ、レナード。
 ブランドブレイ7月騎士団のサード=ノーベル。
 その男が歴史では先の大戦の英雄として讃えられている。」

レナード 「……突然どうしたんだ、そんな英雄譚を持ち出して?」

ウィルバー 「だけどその裏で、記録に残らなかった本当の功績者がいたとしたら?」

レナード 「あの墓碑……お前の祖先の話か?
 もしそれが本当の話だとするならば、
 歴史を隠匿した本人に理由を問いただしてみたいものだな。」

ウィルバー (歴史を隠す理由……そういえばこの大陸の古い歴史も残されていない。
 人の起源はこの大陸ではないと教えられてきた。
 ではどこで人は生まれたんだ? どこから来たんだ?)

ウィルバー (……ラファエル王国時代よりも遙か昔。
 今となっては『世界標準語』というその固有名詞にしか断片が残されていない
 6大陸レベルでの超巨大文明圏が存在した証。)

ウィルバー (それらの歴史は、何故隠されている?
 何故、隠す必要がある……まてよ。
 もしかして、もしかして、それらを隠した張本人は……。)

ウィルバー 「ああ……!!! レナード!」

レナード 「どうした? 突然大きな声をあげて?」

ウィルバー 「あっちだ、あれを見ろ!」

レナード 「どれだ?どこを指さしている?森の中?」

ウィルバー 「そうだ、街道の向こう! 空間が歪んでいるのが分かるか?!」

レナード 「!!!」

ウィルバー 「木々に遮られてうっすらとしか見えないが、
 紫電が空間から放出されている!
 あれは青き民エンディルが転移してくる前兆だ!」

レナード 「!!! ついに来たか、この街にも!
 逃げるぞ、城壁内に!!!
 早くっ!!!」


▽……。



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