Forbidden Palace Library #03 花束を彼女に


王都シルバニア
住宅街
パン屋ソフトブレッド

大通りから少し離れた区域に広がる住宅街。
繁華街から入ってくると路地が狭く感じられるが、それでも他の都市に比べれば充分な道幅を有している。これは戦時の行軍を考慮しての径だと言われている。
もっとも当の住人らにはそのような意識などなく、広い路肩は荷物置き場として使われてしまっているのが現状である。

店先には『ソフトブレッド』と刻まれた木彫りの看板がぶら下がっている。
小さなショーウィンドウ越しにみえる店内には、数種類のパンが綺麗に並べられている。


アリス 「あの、そ、そんなところに隠れないで下さい……わ、私、困ります……」
(ち、ちょっと、カウンターの下に入ってどうする気なの?
 ……ひょっとして私のスカートの中を覗こうと……レナード師団長のえっち。)

エリーゼ 「レナード師団長っ!」

レナード 「…………みつかったか。」

アリス 「恥ずかしいですよぉ……。」
(……でも、レナード師団長なら……ああっ。だめよ、アリス。
 こんなことならもっと可愛い柄のに……ううん。だめだめっ!)

「……ひょっとしてカウンターの下に隠れようとしていたんですか?」
アシスト 「レナード。命が惜しければおとなしく投降しろ。」

レナード 「命か……。命など惜しくはない。
 いつか消える物をわざわざ守る必要はない。
 もしそれが運命なれば、変えることは許されないからな。」

「とりあえずですね、
 カウンターから顔だけ出してそんなこと言っても
 全然説得力がないと思うんですけど。」

アリス 「…………。」
(……でも、もしそのまま『君が欲しい』なんて言われたら……。
 あ、レナード師団長……心の準備が……まだ……あっ。)

アシスト 「お前の命じゃなくて。
 もう一度言う。
 アリスの命が惜しければ投降しろ。」

レナード 「わかった、投降しよう。
 愛する者を命がけで守る。
 例えそれが運命を変えることになっても。」

「……さっきと言っていることが全然違いません?」

レナード 「気のせいだ。
 …………。
 秘書、裏切ったな。」

「こ、これはですね、私の本意では決して……。」

アシスト 「ほほぅ。すると何だ、要するに俺達に協力する気はないと?」

「あ、いえ、決してそういうわけでは……。
 いやー、光栄だなぁ。
 アシスト師団長やエリーゼ師団長のお手伝いが出来て。」

アシスト 「そうかそうか。
 やっと俺の魔導実験の手伝いをする気になったか。
 なに、痛いのは一瞬だ。」

「……え?
 な、なんでそうなるんですかぁぁっ!?
 誰もそんな事言ってませんっっっ!」

アシスト 「ちっ。」

「ちっ、じゃなくて……。
 ……あれ?アリスさん、どうしたんですか?
 さっきからずっと目をつぶって?」

アリス 「あ、い、いえ。
 なんでもないです……。」
(……私が凄い妄想癖だって事はばれてない……わよね?)

アシスト 「レナード、あとで俺の魔導の実験台になってもらうからな。」

レナード 「断る。
 個人の趣味志向に口を出す気はないが、それに巻き込まれるのは御免だ。
 それが私にとって不利益なことならば尚更だ。」

アシスト 「アリスの命が……」

レナード 「承知した。
 魔導の探求?非常に結構なことではないか。
 それが転じて人類の生活向上に結びつくのならば尚更だ。」

「……10秒前と言ってることと全然違いません?」

レナード 「気のせいだ。」

エリーゼ 「レナード副将軍、貴方には役職相応の自覚がなさすぎます。
 貴方は将来この国の将軍になるべき人なのですよ。
 それなのに…………くどくどくどくど。」

アシスト 「おい、エリーゼ、とっとと残りの2人を探しに行くぞ。」

エリーゼ 「先に行ってて。
 まだレナード師団長に話が終わってないの。
 ……いいですか、現在のシルバニア王国は……くどくどくどくど。」

アシスト 「あいつの説教って長いんだよな。
 ……待ってても時間の無駄だな。
 よし、先に行くぞ、秘書。」

「あ?え?あのー、そのー、やっぱり私も行くんですか?」

アシスト 「あたりまえだろ。この期に及んで逃げられるとでも思っているのか?」

「…………本当、どこで間違えたんだろう……。」


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