「そうだ、エリーゼ師団長。」
「なぁに?」
「いえ、つまらない事で申し訳ないんですが、
前からどうしても聞きたかった事があるんですよ。
どうしてあんな人が城壁守備隊長なんかやっているんですか?」
「コペルクニス君の事?」
「ええ。」
「コペルニクス君……年上の人を君付けするのも変な感じよね。
私もよく知らないんだけど、彼ね、
大戦で暗躍していたひとりらしいの。」
「大戦で?
暗躍ってことは……歴史の裏で動いていたと言うことですか?
あの高枝切りバサミ片手に?」
「そういうことになるわね。」
「……あのひとって、一体いくつなんですか?」
「それがよくわからないのよ。
外見上よりは年取っているらしいんだけど、
どうみても30代後半には見えないわよねぇ……。」
「ええっ!?そんなに年とってるんですかぁぁっ!?」
「そうよ。というよりも私たち今の師団長が若すぎるのよね。」
「それで、どうしてあんな人がいきなり城壁守備隊長に……?」
「さすがにそこまで急じゃなかったわよ。
大戦の手柄を認められて採用抜擢されたのは確かだけど。
その頃はまだ私が城壁守備隊長で彼が副隊長だったの。」
「あ、そうだったんですか。ちょっと安心。」
「……そうよね、私がロウクス君と出会ったのも城壁だったわね……」
「え?そうなんですか?」
「え、ええ。
……大戦が終わってしばらくしてマルス前師団長が辞めることになって、
それにともなって私が師団長に昇格したのよ。」
「城壁守備隊長の経験者が将来師団長になるっていう慣習が
昔からシルバニアにはあるのよ。
もっとも、今いる師団長達は私を除いてみんなその例外だけどね。」
(……なんか今すごく恐ろしい事を聞いたような……)
「例外って……ああ、そういえば今の師団長達って、
みんな先の大戦の英雄なんですよねぇ。」
「そうよ。アークライト師団長とユリア師団長はその頃は部隊長だったし、
ベル師団長はシルバニアに雇われた傭兵として活躍してたし、
ロウクス君……いえ、アシスト師団長は……ただの旅人だったものね。」
「え?ベル師団長って傭兵だったんですか?」
「あら?知らなかったの?」
「……だから雰囲気が他の師団長達とちょっと違うんですね。
そうだ。
この機会にもう一つ聞きたいことがあるんですけど……」
「なぁに?」
「シルバニアの城壁の伝説ってありますよね?
大戦中、このシルバニアに敵が攻めてきたときに、たった一人の魔導師が
それをくい止めて、いっきに戦況が逆転したってという話なんですけど……」
「ええ。それがどうかしたの?」
「結局、その魔導師って誰だったんですか?
正体は今も謎に包まれたままって巷では噂されていますけど、
当時、城壁守備隊長だったエリーゼ師団長は何か知っているんじゃないですか?」
「……ないしょ。」
「……え?あ、ちょっと、エリーゼ師団長、置いていかないでくださいよぉっ!」