Forbidden Palace Library #04 彷徨いし来客


王都シルバニア
住宅街

地理上の積雪を予め考慮して建てられた家々は、いずれもみな屋根が尖っている。
雪の重さで屋根が潰されることのないよう、降り積もる前に地面へと落とす仕組みになっている。
これにより家屋は守られているが、その弊害として裏路地ではあちこちが大積雪となっているようだ。

この住宅街の一角に、一軒の小さなパン屋がある。その店の名は『ソフトブレッド』。
掲げられたかわいらしい看板には似つかわしくない、金属鎧を身に纏った男性が、店舗の裏を一心不乱に雪かきしている。
そんな男性の後ろ姿を、茶褐色の髪の若い女性が少し困った表情で、けれどどことなく嬉しそうな笑顔で見つめている。



「レナード師団長っ!」

レナード 「……ん?なんだ、秘書か。また何か用か?」

「いえ、何か用かじゃなくて……」

アリス (レナード師団長、雪かきでお疲れよね……。
 お風呂、湧かしておこうかしら。
 『レナード師団長、お風呂湧かしておきましたのでよければどうぞ』なんて……)

レナード 「用がないなら帰ってくれ。」

エリーゼ 「レナード師団長。
 お気持ちは充分にわかりますが、
 とりあえず今は職務を優先させてください。」

「そうですよ。レナード師団長がアリスさんの事を好……」

レナード 「言うなっ!
 それ以上言うなっ!
 言ったら容赦しないぞっ!」

「き、急にどうしたんですか?
 レナード師団長!?
 ってお願いですから突然剣を抜かないでくださいよっ!」

アリス (『あの、お背中お洗いしましょうか?』『あ、ああ、頼む』
 それで、レナード師団長の背中……背中……背中……きゃっ!
 だ、だめよっ!まだ早すぎるわっ!ああ、でもっ……あ。)

レナード 「アリスさんに聞かれたらどうするっ!」

「聞かれたらって……あれ?ひょっとしてまだ……」

レナード 「言うなっ!それ以上言えば……!」

「レ、レナード師団長、め、目がマジですよぉぉぉぉっ!?」

エリーゼ 「ってあら、アリスさん?……もしもし?」

アリス 「あ、は、はい?何でしょうか?」

「……あ、どうやら聞いていなかったみたいですよ。
 ほら、レナード師団長。ね、ね?
 あのー、ですから剣を収めてくれません?」

レナード 「……一安心だな。」

アリス 「あのー、何か?」

レナード 「あ、いや、気にしないでくれ。」
(……昔はこういう時に平気で『君の笑顔がいつも通りで安心したのさ』とか
 言えたはずなのに……何故、今は言えぬ!?どうした、レナード……?)

アリス 「…………。」

レナード 「…………。」

「……エリーゼ師団長、とりあえず放っておいて先に行きません?」

エリーゼ 「そうね。その方が効率よさそうね。行きましょ。」


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