Forbidden Palace Library #04 彷徨いし来客


王都シルバニア
住宅街

地理上の積雪を予め考慮して建てられた家々は、いずれもみな屋根が尖っている。
雪の重さで屋根が潰されることのないよう、降り積もる前に地面へと落とす仕組みになっている。
これにより家屋は守られているが、その弊害として裏路地ではあちこちが大積雪となっているようだ。

この住宅街の一角に、一軒の小さなパン屋がある。その店の名は『ソフトブレッド』。
掲げられたかわいらしい看板には似つかわしくない、金属鎧を身に纏った男性が、店舗の裏を一心不乱に雪かきしている。
そんな男性の後ろ姿を、茶褐色の髪の若い女性が少し困った表情で、けれどどことなく嬉しそうな笑顔で見つめている。



アリス 「あの、レナード師団長……やっぱり悪いですよ……」

レナード 「いや、構わん。どうせ暇だったからな。」

「……レナード師団長、誰が暇なんです?」

レナード 「秘書か。私は今忙しいのだ。邪魔をしないではくれないか?」

「アークライト師団長とグラン駐在大使の捜索はどうするんですかぁぁっ!?」

レナード 「いいか、秘書、
 時には国家よりも大事なことがあるのだ。
 たとえ火の中、水の中、雪の中。」

アリス (……でも火の中は熱そうだし、水の中は冷たそうよね。
 それで心臓麻痺にでもなったら……。
 やっぱり雪の中にかまくらでも作ってそこで紅茶でも飲んでいるのが一番かしら?)

「雪の中ってなんですか?」

レナード 「雪崩のことだ。」

アリス (いやっ!やっぱり雪の中もいやっ!お願いっ!レナード師団長っ!助けてっ!)

「それにさっき国家の一大事だとか言ってませんでした?」

レナード 「気のせいだ。
 ……ん?アリスさん?
 マントの裾をつかんで……どうかしましたか?」

アリス 「あ、い、いえ、なんでもないんです……」

「はぁ。……とにかく、一段落したらちゃんと捜索再開してくださいね。」

レナード 「そのうちにな。」

「そ、そのうちって……。」


▽中央公園へ行く
▽城壁へ行く
▽繁華街へ行く



▽書庫に戻る


OWNER
Copyright(c)1997-1998 FUBUKI KOGARASHI (木枯 吹雪) fubuki@kogarashi.jp 日本語でどうぞ。