Forbidden Palace Library #05 異存なき決定


王都シルバニア
住宅街

いつも昼間はにぎやかな住宅街だが、雪が降っているせいもあり人通りは少ない。
住宅街といえども少なからず店舗が軒を連ねている。
だが、来客がほとんどないことに諦めを覚えてか、早々と営業を終了にしている店もある。

パン屋ソフトブレッド。
木彫りの看板のぶら下がったそのお店の中から、人の話し声が聞こえてくる。



からんからん


「それにしてもレナード将軍、いいご身分ですよね。」

レナード 「何だ、秘書か。何のようだ?」

アリス 「……レナード……将軍?」

「あれ?聞いていないんですか?レナード師団長が今度将軍に昇格したという話……」

レナード 「……ぽん。おお、そうか。」

「そ、そうかって……ひょっとしてレナード将軍、忘れてませんでした?」

レナード 「いや、そんなことはないぞ。
 無論、この国の全軍を率いる者として何よりもこの職務が重要なのだ。
 市民の命がかかっているのだから、何よりも任務を優先させる必要がある。」

アリス (将軍に昇格なさったのね……嬉しいはずなのに……何故か素直に喜べないわ。
 ……だって将軍になられたら……
 ここに来る回数が少なくなってしまうかもしれない……そう考えると……。)

「アリスさんよりも任務が大事ですか?」

レナード 「いや、そんなことはないぞ。
 無論、愛する者の事を思えば仕事など二の次だ。
 任務などよりも、やはり愛する者と共に時を過ごした方が……」

「さっきと言ってること全然違いません?」

レナード 「気のせいだ。」

「……あれ?もしもーし、アリスさん?」

アリス (でも……ここは素直に喜んであげるべきよね。
 そうよ、好きな人の出世ですもの……少し、寂しいけど。
 ……はっ!)

アリス 「あ、はい?」

「……どうやら今の話、聞いていなかったようですね。」

アリス 「あの、レナード将軍、おめでとうございます。」

レナード 「ありがとう。
 そう言って貰えると嬉しいよ。
 ……で、秘書、俺がいい身分とはどういうことだ?」

「私が大変な目に遭っているのにレナード将軍は紅茶を飲んでのんびり……」

レナード 「大変な目?なんだ、それは?」

「あっ!そうだっ!道草くってる場合じゃなかったっ!探さなきゃっ!」


からんからん

レナード 「……忙しい奴だな、あいつも。」



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