Forbidden Palace Library #05 異存なき決定


王都シルバニア
住宅街

夕暮れが近い。どんよりとした雲が、自らの色を濃くしながらそう告げる。
雪は相変わらずしんしんと降り続けている。

夕食の準備時だからだろうか、家々の台所の窓からはほのかな湯気が立ち上がっている。

パン屋ソフトブレッド。
木彫りの看板のぶら下がったそのお店の中から、人の話し声が聞こえてくる。



からんからん


アリス 「あ、あのー、レナードさん……」

レナード 「なんだね?」

アリス 「あの、そ、その、い、今つきあっている人とか、いるんですか?」

レナード 「……いや、いない。」

アリス 「そ、そうですか……」
(よかったわ……私にも……
 まだチャンスがあるということよね……)

レナード 「だが、好きな人ならいる。」

アリス (ええっ!?
 そ、そんな……誰なの!?
 レナードさんの好きな人って……)

アリス 「……どなた……なんでしょうか?」

レナード 「あ、ああ。その……アルファベットのA……」

アリス (アルファベットのA……アシスト師団長っ!?それともアークライト師団長っ!?
 ダメよ、そんなっ、男性同士なんて不潔よっ!
 見たくないわっ、そんなのっ!……でもちょっとだけ……だ、だめよっ!)

レナード 「その……アルファベットのAで名前が始まる人だ。」

アリス (繁華街のアンジェリカAngelica?それとも裏の通りのオーレリアAurelia?
 いえ、もしかすると毛糸屋のアニーAnnieかもしれないわ……そんなっ……!
 アニーなんかまだ8才よ?ひょっとしてレナードさんってそういう趣味……)

レナード 「……アリスさん?」

アリス 「レナードさん……そういう趣味だったんですか……?」
(そんな……幼女嗜好だったなんて……。
 私も少し童顔かもしれないけど……私じゃだめなのかしら……?)

レナード 「物好きだ、と言いたいのかね?いや、だがそれでも私は……」
(君の事が好きなのだ。
 あの日、公園で君のことを見かけたときからずっと……)

アリス 「いえ、そういう趣味の人も世の中にはいるんでしょうけど……」
(でも……それでもいいの。それでも私の気持ちは……変わらないわ。
 たとえ片思いでも……私は自分の気持ちに嘘はつけないから……)

「……あのー、なにか話が噛み合っているようで
 いまいち噛み合っていない気がするんですけど……
 気のせいですかねぇ?」

レナード 「ひ、秘書っ!いつからそこにいたっ!」

「いえ、先ほどからずっとここにいましたけど……。」

レナード 「……よくも私の計画の邪魔をしおって。
 仕方有るまい。
 計画は練り直しだ。」

アリス 「はい?計画?」

レナード 「い、いや、なんでもないこっちの話だ。
 ところで秘書、
 先ほど聞き忘れたのだが、大変なこととは一体なんなのだ?」

「あっ!そうだっ!書類探さなきゃっ!じゃ、失礼しますっ!」


からんからん……

レナード 「……忙しいやつだな、相変わらず。」

アリス 「あ、あの、レナード将軍、新しい紅茶いかがです?」
(でも、それでもいいの。
 私は貴方がこうやって一日に一回来てくれるだけでも幸せなの……)

レナード 「ああ、ありがとう、貰うとするか。」
(しかしとんだ邪魔が入ったな……。
 計画は再検討し後日改めて実行に移す必要があるか……)



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▽城壁へ行く
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