「バレンタインの中央市街には
先の大戦で臨時司令部として使われた建物があるんだけど、
今回の再開発もそこに本部を設置することが決まったの。」
「まさに、街の中心地ですね。」
「ええ。
建国当初の二次遷都計画委員会も
そこを本部にしていたらしいのよ。」
「え、そうなんですか?」
「その後何度も改修はされているけど、
ずっと原型は留めたままで今の時代に至っているの。
だから、愛着を持っている人も多いわ。」
「それで、国側と住民側の折衷案ですか……。」
「私個人的には思い出のある町並みの保護に賛成なんだけど、
師団長の立場としては防衛を強化したいの。
大戦で、バレンタインは大きな被害を受けているから。」
「あ、なるほど。」
「あの時、もしも区画整理がきちんと行われていたら、
もっと素早く部隊を展開することができたかもしれない。
……いいえ、それだけではないわ。」
「より多くの命を救うことができたかもしれない。
あの戦いで死んでしまった誰か一人だけでも、
生き長らえることができたかもしれないって。」
「…………。」
「そう考えると、いても立っても居られなくなってくるの。
少しでも人の命を救えるなら。
私に、何かできることがあるなら。」
「優しいんですね、エリーゼ師団長は。」
「それが、私が軍に入った理由なのよ。」
「……そうだったんですか。初耳です。」
「犠牲者が出てからでは、遅いのよ……。
もう、自分の無力のせいで、
大切な人が死ぬのはたくさんだから。」
「大切な人?」
「ううん、本当はよくわからない。
だけど遠い記憶のどこかで、
ずっと誰かを亡くしたような気がしてて……。」
「?」
「ごめんなさい、秘書さん。
今の話は忘れて。
……それじゃ、またね。」
(エリーゼ師団長って、時々どこか遠い目をするんだよなぁ。
……あれ、誰かの目と似てる様な。
えーと、誰だろう?)
★★