Forbidden Palace Library #10 舞え軽やかに


王都シルバニア
住宅街
パン屋ソフトブレッド

朝の焼きたての時間にいた人だかりはもういない。
焼き上がりの合間のひととき、
少しだけの休み時間といったところか。

閑静な住宅街は、いつもの静けさを取り戻している。




からんからん

ジュリアス 「いらっしゃーいまーせー☆」

レナード 「………………。」

ジュリアス 「ご注文は何に致しましょうか?」

レナード 「何故ここにいる、ジュリアス。」

ジュリアス 「やだぁ、俺とお前の仲じゃなーい☆」

レナード 「……やめろ、気色悪い。ましてや裏声など使うな。」

アリス (やっぱりそういう仲なのねっ!!!
 不潔よっ!
 だめよ、そんなのっ!!!)

レナード 「で、何しに来た。」

ジュリアス 「いや、用はない。」

レナード 「……帰れ。」

ジュリアス 「おー、そうだそうだ、お茶を飲みに来たんだ。」

レナード 「あたかも今思いつきましたとばかりに
 とって付けて言うな。
 だいたいここは喫茶店じゃないぞ。」

アリス 「……あ、いま紅茶入れて来ますね。少々お待ちを。」


たたたたたっ

レナード 「いや、こいつには特に構わなくていいぞ。」

ジュリアス 「砂糖多めでよろしく。」

レナード 「……アリスさんの手間を煩わすな。」

ジュリアス 「紅茶の出涸らし飲んどけってことか?」

レナード 「むしろ葉っぱだけ噛んでろ。口の中で紅茶になるぞ。」

ジュリアス 「あー、
 紅茶のクッキーってのもあることだし、
 食えないこともないかなぁ。」

「そんなこと真剣に悩まないでくださいよ……。」

レナード 「ジュリアス、だいたいお前
 何か用事があるとかで、
 今朝早くに出掛けたのではなかったか?」

ジュリアス 「なに、南緯47度市は逃げやしないさ。
 むしろ俺がわざわざ行くよりも、
 47°市がこっちに来いって感じだな。」

「なんか無茶言ってるし……。
 だいたい南緯47度市がその場所から動いたら、
 もう南緯47度市じゃないじゃないですか。」

レナード 「南緯47度直下に位置するが故に、
 大陸で唯一、数字から始まる名前を持つ街、か。
 この国で4番目に大きな都市でもあるがな。」

「あれ、3番目は?」

レナード 「ロンドンデイル市だ。
 学校の地理の授業で習わなかったか?」

「そういわれればそんな気も……。」

レナード 「そういうお前も地理の時間はよく早弁してたよな。」

ジュリアス 「知ってるか?
 授業中のクッキーほどうまいものはないんだぞ?
 あ、もちろんチョコチップクッキーな。」

「そんなこと力説されても……。」

ジュリアス 「そういうレナードはよく授業中に女の子ナンパしてたよな。」

「え、そうなんですか?」

レナード 「…………ジュリアス。」

ジュリアス 「なんだ、相棒?」

レナード 「ここでは絶・対・にその話はするな。いいな?」

ジュリアス 「俺にウソを付けと?」

レナード 「黙れと言っている。」

ジュリアス 「……口留め料は高いぞ?なあ、秘書君。」

「え、そこで私に振るんですか?」

ジュリアス 「そうだな、
 口止め料を払わないと言うので在れば、
 お前が初等学校の運動祭で……。」

レナード 「…………………………。」

「レ、レナード将軍?」

ジュリアス 「やべっ、
 まだ根にもってたのか!!
 じゃ、またなっ!」

レナード 「待てっ、ジュリアス!!!」


からんからん


だだだだだだだだだっ

「……あーあ、二人とも行っちゃった。」


たたたたたっ

アリス 「紅茶お持ちしました……。
 あら?
 レナードさんとお友達の方は?」

「えーと……鬼ごっこ?」

アリス (!!!
 負けない、負けないわ!!!
 男同士だなんて、絶対に不潔よ!)

「あ、あのー、アリスさん? もしもし?」



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