Forbidden Palace Library #10 舞え軽やかに


王都シルバニア
住宅街
パン屋ソフトブレッド

昼食時を過ぎたからだろうか、
さっきまでは時折行き交う人々の足音と、台所から洩れてくる軽快な料理の音だけで満たされていたのが、
いつの間にか子供達の小さな足が路地を駆け回る音と、陽気にはしゃぐ声に取って代わられている。

昼過ぎの住宅街は、子供達にとって恰好の遊び場のようだ。



ジュリアス 「……やっぱりここにいたのですか、レミィ陛下。」

レミィ 「……くー。」

ジュリアス 「その寝息は起きているんですね。
 今朝この辺りで陛下らしき女性を見かけたという噂があったので、
 もしやと思って捜索していたのですが。」

レミィ 「…………また、この都市から離れるそうですね。」

ジュリアス 「ええ。
 ですからせめて、
 陛下のお姿を確認してからと思いまして。」

レミィ 「……でも、見付かってしまいましたね。
 もっと分かりにくい場所に隠れていれば、
 旅立ちを遅らせることができたのかもしれませんわね。」

ジュリアス 「!
 ……レミィ陛下。
 わざと、隠れていたのですか?」

レミィ 「…………なんのことでしょう。くー。」

ジュリアス 「陛下。貴方は一国の女王なのです。
 貴方がほんのひととき行方不明になるだけで、
 一体どれだけの人間が慌て心配するとお思いですか。」

レミィ 「後にする者よりも、残される者の方が辛いのです。」

ジュリアス 「?」

レミィ 「……貴方のいないこの国なんて、
 私には何の価値も見いだすことができません。
 それならずっと寝ていた方がましです。」

ジュリアス 「………………。」

レミィ 「いつぞやみたく、私を奪ってくださっても構わないのですよ。」

ジュリアス 「!
 ……ダメだ。
 やっと、この国に戻ることが許されたんだ。」

ジュリアス 「例え貴方が同意の上でも、
 また同じ事を繰り返したら……
 今度こそ俺は二度とこの国に戻れなくなってしまう。」

ジュリアス 「それに、いまのこの国は事実上軍政だ。
 だからこそ、軍部の人間……それも軍閥の家に生まれた者と
 王族とが結ばれることは世間的に許されない。」

レミィ 「ならば、私が王位を降ります。私が平民になれば……」

ジュリアス 「ダメだ、キャロリーネ!貴方は一国の主、この国の女王だ。
 兄弟も跡継ぎもいない。いるのは従兄弟殿がただ一人。
 その貴方が王位を放棄することは許されない!」

レミィ 「……やっと、その名前で呼んでくださったのですね。」

ジュリアス 「!」

レミィ 「私は一国の女王かも知れません。
 けれど、それ以前にキャロリーネという名前の
 一人の女性なのです。」

ジュリアス 「……キャロリーネ、聞いてくれ。」

レミィ 「はい。」

ジュリアス 「俺は、あのジジイのやり方には反対なんだ。
 だけど、それを変えるために俺が師団長についたら、
 あのジジイと結局同じやり方になってしまう!」

ジュリアス 「だから、陛下の夢を叶えるには、
 師団長にはならずに、
 その外側から文民統制に戻すしかないんだ。」

レミィ 「貴方の夢は、どこにあるのです?」

ジュリアス 「……ただ貴方の側に、いることです。」

レミィ 「…………。」

ジュリアス 「……すぐに戻ってくる。
 待っててくれキャロリーネ。
 いつか、お前を迎えに行く。」

レミィ 「……わかりました。
 ユリウス。
 ではこれを、お持ち下さい。」

ジュリアス 「?」


すらっ

ジュリアス 「ナイフ?」


バサッ

ジュリアス 「!!!」

レミィ 「この私の髪をお守りだと思って、大切にしてください。」

ジュリアス 「! ……ありがとう。」

レミィ 「ユリウス。貴方を愛してます。」

ジュリアス 「俺も愛してる、キャロリーネ。」

レミィ 「…………ユリウス。」

ジュリアス 「…………。」


すっ

レミィ 「……。」

ジュリアス 「……。」


ちゅっ

ジュリアス 「……行ってくる。」

レミィ 「お気をつけて、私は、いつまでも待ってます。」



▽ 中央公園へ行く
▽ 城壁へ行く
▽ 繁華街へ行く
▽ 住宅街へ行く

★★★



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