「……やっぱりここにいたのですか、レミィ陛下。」
「……くー。」
「その寝息は起きているんですね。
今朝この辺りで陛下らしき女性を見かけたという噂があったので、
もしやと思って捜索していたのですが。」
「…………また、この都市から離れるそうですね。」
「ええ。
ですからせめて、
陛下のお姿を確認してからと思いまして。」
「……でも、見付かってしまいましたね。
もっと分かりにくい場所に隠れていれば、
旅立ちを遅らせることができたのかもしれませんわね。」
「!
……レミィ陛下。
わざと、隠れていたのですか?」
「…………なんのことでしょう。くー。」
「陛下。貴方は一国の女王なのです。
貴方がほんのひととき行方不明になるだけで、
一体どれだけの人間が慌て心配するとお思いですか。」
「後にする者よりも、残される者の方が辛いのです。」
「?」
「……貴方のいないこの国なんて、
私には何の価値も見いだすことができません。
それならずっと寝ていた方がましです。」
「………………。」
「いつぞやみたく、私を奪ってくださっても構わないのですよ。」
「!
……ダメだ。
やっと、この国に戻ることが許されたんだ。」
「例え貴方が同意の上でも、
また同じ事を繰り返したら……
今度こそ俺は二度とこの国に戻れなくなってしまう。」
「それに、いまのこの国は事実上軍政だ。
だからこそ、軍部の人間……それも軍閥の家に生まれた者と
王族とが結ばれることは世間的に許されない。」
「ならば、私が王位を降ります。私が平民になれば……」
「ダメだ、キャロリーネ!貴方は一国の主、この国の女王だ。
兄弟も跡継ぎもいない。いるのは従兄弟殿がただ一人。
その貴方が王位を放棄することは許されない!」
「……やっと、その名前で呼んでくださったのですね。」
「!」
「私は一国の女王かも知れません。
けれど、それ以前にキャロリーネという名前の
一人の女性なのです。」
「……キャロリーネ、聞いてくれ。」
「はい。」
「俺は、あのジジイのやり方には反対なんだ。
だけど、それを変えるために俺が師団長についたら、
あのジジイと結局同じやり方になってしまう!」
「だから、陛下の夢を叶えるには、
師団長にはならずに、
その外側から文民統制に戻すしかないんだ。」
「貴方の夢は、どこにあるのです?」
「……ただ貴方の側に、いることです。」
「…………。」
「……すぐに戻ってくる。
待っててくれキャロリーネ。
いつか、お前を迎えに行く。」
「……わかりました。
ユリウス。
ではこれを、お持ち下さい。」
「?」
「ナイフ?」
「!!!」
「この私の髪をお守りだと思って、大切にしてください。」
「! ……ありがとう。」
「ユリウス。貴方を愛してます。」
「俺も愛してる、キャロリーネ。」
「…………ユリウス。」
「…………。」
「……。」
「……。」
「……行ってくる。」
「お気をつけて、私は、いつまでも待ってます。」
★★★