「あ、画家のジェイムスさん。」
「ほいほい、なんじゃい。
おや、お前さんか。
また何か忙しそうにしておるのぉ。」
「……いいですね、隠遁生活って。」
「あまりそう気楽なもんではないがのぉ。
若い頃は大陸各地を駆け回っておった。
そろそろ終の棲家を見付けようと思うてな。」
「それで、シルバニアに?」
「うむ、この都は美しい。
生を終える時、その瞼の裏に焼き付けるには
もっともふさわしい景観だとは思わぬかね。」
「……あ、そうだ。ちょっとお伺いしたいことが。」
「なんじゃね?」
「大陸を駆け回っていたってことは、
もしかしてこの公園の名前の由来についても、
何か知っていたりします?」
「……センティス公の話かね?」
「はい。」
「占領された王城を奪還し、
王族で唯一、王立軍を直接率いた
偉大なる公爵じゃよ。」
「その奪還ってところなんですが、一体誰に占領されていたんです?」
「……センティス公の敵は、
ブランドブレイの7月騎士団と9月騎士団。
かつての宗主国の一派じゃったのだよ。」
「え……!?」
「結果的に市民はセンティス公を支持し、
クーデターは失敗に終わり、王城は再び公の元へと戻った。
しかし占領の動機については今以て謎が多いとされておる。」
「その事件により、各頭領たる二家は断絶させられての。
代わりに騎士家へ昇格となったのが、
ノーベル家とラグランジュ家なのじゃよ。」
「ぇええ!?」
「そんな大きな声出すほどのことかね、お嬢さん。」
「あ、いえ、申し訳ありません。初耳だったもので……。」
「その興隆せしノーベル、ラグランジュの両家とも、
今やブランドブレイには残っておらぬ。
時代とは流れるものじゃのぉ。」
「は、はぁ……。」
(歴史の裏に、そんな大事件が……。)
★★