「……娘から、
風変わりな画家が最近公園にいると聞いてみれば、
やはり貴方でしたか。」
「…………その声はお主か。
懐かしいの。
随分と老けた様子じゃ。年老いたのぉ。」
「それはお互い様です。」
「儂を、逮捕に来たのかね?」
「いえ。
もう私は騎士団の人間ではありませんから。
今はただの一平民です。」
「そうか、そうじゃったな。」
「娘が何やらお世話になっているようで。」
「娘?
ああ、なるほど、さっきの若いのがお主の娘か。
道理で見覚えがあると思うたわい。同じ目をしておる。」
「……ひとつだけ、お伺いしたいことが。」
「なんじゃね?」
「原子崩壊魔導『ディスインテグレート』。」
「…………。」
「今なら、あの時の話が全て理解できる。
貴方はその魔導を知っているはずだ。
いえ、知っているという言い方は相応しくない。」
「以前の貴方は、その魔導を被ったことがあるのでは。」
「気づきおったか。」
「ジェイムス=エディソン。それは今の貴方の名前にすぎない。」
「…………。」
「しかし500年前に生を受けていた頃は、別の名前で生きていた。
ヴェクター=メーヴィウス。
元カイザリア帝国、特務隠密兵。」
「……いかにも、その通りじゃ。
こんな馬鹿げた話を言ったところで誰にも信じては貰えぬ。
ならばと、胸に秘めておったのじゃが……。」
「道理で、特定の年代史に詳しすぎると思っていました。
通常の転生を経ずに生死の輪廻へと巻き込まれたが故に、
貴方は以前の記憶を持ったまま生まれ変わった、ということですか。」
「そうじゃ。常に掛ける側であったが故に、
エルネストが生前知ることの無かった、原子崩壊魔導唯一の欠陥。
それは生前記憶の未初期化。よく知っておるな。」
「この国にも、同じような人間が一人いまして。」
「ほう。」
「いえ、もちろん私ではありません。
その彼は今は師団長として、
この国に仕えているようですが。」
「……目を閉じれば今でもレイン司令官をはじめ、
ジーク、ベルナルド、ユージン、皆の顔が浮かび上がる。
そしてまだこの都がなかった頃の、大きな森の光景も。」
「あの時代を共有できる人間は、もはや誰もおらぬ。」
「エルネストが、その魔導で死んだと言ったら。」
「!!!
なんじゃと!?
まさか、それは本当なのか……。」
「彼は、次に生まれ変わった時に以前の記憶を持っている。
ただ、元々長寿を生きすぎた存在だ。
どこまでの記憶を引き継げるのか、未知数な所は多い。」
「……じゃが、それが事実だとすれば……。」
「数百年後、彼は再び現れる。」
「エンディルが先か、エルネストが先か。
どちらにしても、人類にとって
艱難辛苦となることは間違いない。」
「……奴はどうやら、
死してなお儂らに安息を
与えてはくれぬようじゃな。」
(あれ、あの二人は……!)
(え、知り合いだったの?
一体何を話しているんだろう。
ここからじゃ全然聞こえないや……。)
★★★