Forbidden Palace Library #11 本意なき発言


王都シルバニア
中央公園

大陸の短い夏はあっという間に終わり、太陽は再び低い軌道を周りはじめる。
やがて陽光は街路樹をかすめるようになり、夜の長い冬が訪れる。

いつもは水飛沫を吹き上げる噴水も、今日は休日のようだ。



??? 「……娘から、
 風変わりな画家が最近公園にいると聞いてみれば、
 やはり貴方でしたか。」

エディソン 「…………その声はお主か。
 懐かしいの。
 随分と老けた様子じゃ。年老いたのぉ。」

??? 「それはお互い様です。」

エディソン 「儂を、逮捕に来たのかね?」

??? 「いえ。
 もう私は騎士団の人間ではありませんから。
 今はただの一平民です。」

エディソン 「そうか、そうじゃったな。」

??? 「娘が何やらお世話になっているようで。」

エディソン 「娘?
 ああ、なるほど、さっきの若いのがお主の娘か。
 道理で見覚えがあると思うたわい。同じ目をしておる。」

??? 「……ひとつだけ、お伺いしたいことが。」

エディソン 「なんじゃね?」

??? 「原子崩壊魔導『ディスインテグレート』。」

エディソン 「…………。」

??? 「今なら、あの時の話が全て理解できる。
 貴方はその魔導を知っているはずだ。
 いえ、知っているという言い方は相応しくない。」

??? 「以前の貴方は、その魔導を被ったことがあるのでは。」

エディソン 「気づきおったか。」

??? 「ジェイムス=エディソン。それは今の貴方の名前にすぎない。」

エディソン 「…………。」

??? 「しかし500年前に生を受けていた頃は、別の名前で生きていた。
 ヴェクター=メーヴィウス。
 元カイザリア帝国、特務隠密兵。」

エディソン 「……いかにも、その通りじゃ。
 こんな馬鹿げた話を言ったところで誰にも信じては貰えぬ。
 ならばと、胸に秘めておったのじゃが……。」

??? 「道理で、特定の年代史に詳しすぎると思っていました。
 通常の転生を経ずに生死の輪廻へと巻き込まれたが故に、
 貴方は以前の記憶を持ったまま生まれ変わった、ということですか。」

エディソン 「そうじゃ。常に掛ける側であったが故に、
 エルネストが生前知ることの無かった、原子崩壊魔導唯一の欠陥。
 それは生前記憶の未初期化。よく知っておるな。」

??? 「この国にも、同じような人間が一人いまして。」

エディソン 「ほう。」

??? 「いえ、もちろん私ではありません。
 その彼は今は師団長として、
 この国に仕えているようですが。」

エディソン 「……目を閉じれば今でもレイン司令官をはじめ、
 ジーク、ベルナルド、ユージン、皆の顔が浮かび上がる。
 そしてまだこの都がなかった頃の、大きな森の光景も。」

エディソン 「あの時代を共有できる人間は、もはや誰もおらぬ。」

??? 「エルネストが、その魔導で死んだと言ったら。」

エディソン 「!!!
 なんじゃと!?
 まさか、それは本当なのか……。」

??? 「彼は、次に生まれ変わった時に以前の記憶を持っている。
 ただ、元々長寿を生きすぎた存在だ。
 どこまでの記憶を引き継げるのか、未知数な所は多い。」

エディソン 「……じゃが、それが事実だとすれば……。」

??? 「数百年後、彼は再び現れる。」

??? 「エンディルが先か、エルネストが先か。
 どちらにしても、人類にとって
 艱難辛苦となることは間違いない。」

エディソン 「……奴はどうやら、
 死してなお儂らに安息を
 与えてはくれぬようじゃな。」


…………。

(あれ、あの二人は……!)

(え、知り合いだったの?
 一体何を話しているんだろう。
 ここからじゃ全然聞こえないや……。)



▽ 城壁へ行く
▽ 繁華街へ行く
▽ 住宅街へ行く

★★★



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