「マルス殿。」
「んんん。
グラン君、こんにちは。
でも僕そろそろ行かなくちゃなんだ。」
「……一体、何処(いずこ)へ。」
「んんん。とりあえず南方かな。
まずはバレンタイン港に出て、
そこからヴァンドレディ公国に向かおうかと思ってね。」
「何故(なにゆえ)に。」
「んんん。それは秘密だよ。」
「エリック殿。」
「ん?」
「…………。」
「!」
「……何故、正体を隠そうとするのでござる。
赤の他人ならいざ知らず、
拙者やグリフィスは貴殿の甥でござるぞ。」
「……ごめんね。
でも、言えないんだ。
僕に、それを語る事はできない。」
「叔父貴を探すために、
わずかな情報を信じてこのシルバニアまで、
来たのでござるよ! それなのに……。」
「んんん、そっか。
だから大使として赴任してきたんだね。
ありがとう。でも、ごめんね。」
「……どうしても、何も語ってはくれぬでござるか。」
「外交特権を使えば、非合法な情報にも触れる事ができる。
君はその中で、薄々と気付いたんじゃないかな。
僕が、何を恐れているのかを。」
「…………。」
「んんん。エリックは死んだ。
僕は、マルス=アインシュタイン。
それでいいんだ。」
「エリック殿!」
「……叔父貴殿、
どうして最後まで話を聞いて下さらぬのか!
その紫の御仁は、既に2年前に……!」
「……貴方はもう、この世にいない人物に
怯える必要はないというのに!
どうして、その事を知って下さらぬのだ……。」
★★★