「シルバニアの城壁には3つの門があって、
それぞれフェルディナント門、ジェイド門、ネフライト門と
名前が付けられているのよ。」
「なんだか人名っぽいですよね。」
「ええ、その通りよ。
このシルバニア市を建設するにあたって、
偉大な功績を残した人達なの。」
「それぞれどんな人だったんです?」
「フェルディナントさんは、
この王都建設にあたって一番上で指揮した人よ。
でも結局この都市に移住する事なく、自国へ戻ったみたい。」
「え、自国って……シルバニアの人じゃなかったんですか?」
「もともとブランドブレイの騎士団長だったの。
分国するにあたり派遣されてきた総督のような立場だったから、
任務が終わったら律儀に帰ったみたい。」
「自分で指揮した都市に住みたいとは思わなかったんですかね?」
「やっぱり愛着はあったでしょうね。
実際、シルバニアへの移住を望む声もあったみたいよ。
でも、不公平になるからって断ったんですって。」
「不公平って?」
「ただ指揮したというだけで、一族が名士になるのを嫌ったみたい。
それに建設指揮者の末裔がその都市に住んでいたのでは、
何かと不都合もあるだろう、って。」
「……なるほど。」
「だから、仮に移住するとしても、
この街の市民がフェルディナントさんの姓名を
すっかり忘れた頃になるだろう、って。」
「それで、その人の姓名は?」
「幸か不幸か、彼の望み通り、今となっては忘れられてしまったわ。
もちろん公文書資料室に行けばきちんと記録に残っているわ。
けれど、街の人達はもう誰も覚えていない。」
「……なんだか、寂しい話ですね。」
「どうかしら?
私達が知らないだけで、意外と身近に
舞い戻ってきているかもしれないわよ。」
★★