Forbidden Palace Library #07 夜明けの前に


王都シルバニア
ハーシェル邸

城壁の側、最も明るい区画に建てられたハーシェル邸。
シルバニアの建築法に合わせて塗られた白い家屋は、城壁の上から発せられる魔導の明かりを反射しややまぶしくも感じる。特にこんな真夜中であれば尚の事だ。

それにも関わらず家の中の至る所から、丁寧にも窓という窓の全てから室内の明かりがこぼれてきている。
家の主が寝ていようが寝ていまいが、常にこの家には明かりが灯っていることで有名なのである。


「ユリア師団長の家って、何時に来ても明かりがついてますよね。」

レナード 「暗所恐怖症だから、明かりのないところが耐えられないのだろう。」

「そういえば今ふと思ったんですけど、
 ボイス元帥ってユリア師団長の祖父にあたるわけですよね?
 一緒に住んではいないんですか?」

レナード 「何年か前に別々に暮らし始めたはずだったな。
 ボイス元帥の家、つまり実家は住宅街にあるんだが、
 夜はお世辞にも明るいとは言えない区画だったからな。」

「それで、引っ越したんですか?」

レナード 「らしい。かつてユリア自身がそう言っていた。」

「……でもこの明かりって、
 言い方変えれば
 いい近所迷惑ですよね。」

レナード 「だがあそこまで無尽蔵にライトの魔導を使えるからこそ
 なせることが出来た明るさではあるがな。
 やはり大魔導師だった祖母の血を濃く引いたのだろう。」

「祖母?」

レナード 「イーディス=ハーシェル。旧姓ベークラント。
 魔導を詠唱無しで発動できた稀代の師団長。
 その名前を聞いたことはないか?」

「あるような、ないような……。」

レナード 「なければどこかに入荷されている『鐘の音を合図に』を読む事だな。」

「……は?」

レナード 「いや、なんでもない。宣伝だ。」

「宣伝って、なんですか?」

レナード 「……宣伝?そんなこと言ったか?」

「ええ、3行ほど前にそんな台詞が……。」

レナード 「忘れたまえ。見なかったことにするんだ。」

「……いえ、いいんですけどね、別に。」



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