Forbidden Palace Library #08 認可なき侵入


王都シルバニア
城壁

日差しをうけて白く輝く城壁。
そしてその城壁の下、同じ白さで輝く高枝切りバサミ。
季節が移り変わってもこの二つだけは変わらないものなのだろうか。

ついこの間まで城壁の上に常備されていた雪かき用のスコップは、もう季節的に必要ないと判断されたのか、兵舎に戻されてしまったようだ。

先ほどまで馬車の上で交渉していた商人達の姿もまばらになってきた。
どうやら交渉がてら昼食でも取りに行ったのだろう。



アシスト 「……次にエンディルが侵攻してくる300年後、
 もはや俺は生きてはいない。
 その時の為に、俺は何ができるだろうか……。」

「どうしたんです、アシスト師団長?珍しく深刻な顔して?」

アシスト 「……今から約600年前。まだラファエル王国が存在していた時代。
 この大陸にフィリスディールという名の女性のエンディルが
 初めて姿を現した。」

「え?女性だったんですか?」

アシスト 「ああ。最初は争う気もなく、
 別の文明を対等に教える代わりに魔導を捨てないかと
 当時の王室に和平交渉を持ちかけたらしい。」

「で、王室は何て答えたんです?」

アシスト 「否、と。王室宰相のその言葉により文明維持を賭けての戦争は始まった。」

「…………。」

アシスト 「当初はエンディルが圧倒的に優位に立っていたらしい。
 ラファエル王国に存在したとされる幻の王都シャロンですら
 一昼夜の内に滅ぼされたという。」

「幻都シャロン……未だに謎の多い伝説上の都市ですよね……。」

アシスト 「だが戦争というものは文明の発展に高度な加速をかけるらしい。
 その屈辱を覆すべく人々は知恵を集め、
 目覚ましい速度で短期間に魔導が発展を遂げることとなった。」

「え?そうなんですか?」

アシスト 「ああ。例えばライト……灯りの魔導があるだろう。」

「はい。義務教育で一番最初に習う魔導ですよね?」

アシスト 「昔のライトの魔導は効果持続時間が一瞬だったらしい。
 だが、夜間戦闘用に改良され今のように半日以上も
 その光量を持続できるようになったのだ。」

「たかが灯りの魔導と思っていたんですけど、
 そんな歴史があったんですね……。
 初等学校で一番最初に習う基礎魔導なのにそんなに奥が深いとは……。」

アシスト 「基礎だからこそ、奥が深いのかもしれないけどな。
 余談だが、流体魔導学の知識を加えれば鬼火が燃えているように
 見せることも可能だ。それなりに手間はかかるけどな。」

アシスト 「とにかく、そのフィリスディールとやらの攻撃で
 ラファエル王国は首都を失い、事実上は政府機構が消滅。
 全土の統一を保てなくなり崩壊し、3つの国に分割された。」

「それが西のエルメキア、
 東のアルゲンタイン、
 そして南のブランドブレイですね?」

アシスト 「そう。その中でもアルゲンタインは早い時代にクーデターで
 カイザリアという国名に変わってしまったけどな。
 ……そしてそれから少し後、ブランドブレイも王位継承問題から2つの国家に分裂した。」

アシスト 「双子の王位継承者にそれぞれ国家を治めさせるようにとの王の遺言通り、
 北半分、現在で言うところのブランドブレイ王国は片方の王子が継承し、
 残りの南半分をもう一人の王子が家名を変えて継承した。」

アシスト 「その枝分かれした方の南半分が、俺達の今いるこのシルバニアというわけだ。」

「あ、だから
 いまでもこの国ではブランドブレイ王国のことを
 『宗主国』と呼ぶ習慣があるんですね?」

アシスト 「そういうことだ。
 だがいつかまた戦争の時は来る。
 その時のために俺が出来る事……ぶつぶつぶつ」


すたすたすた


「……珍しくまじめな顔していたなぁ、アシスト師団長。」



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