「アシスト師団長、魔導の原理ってどうなっているんです?」
「ん? いきなり核心を突いた質問をしてくるな。
そりゃもちろん、理力と魔力の合成によるものだ。
初等学校で習っただろ?」
「いえ、そうではなくて……。」
「構成要素を介することで6つの素粒子を動かし、
その組み合わせで物理現象を引き起こしたり
元素の性質を変化させたりするんだ。」
「えっと、もっと理念的な事が知りたいんですが。」
「例えばだな、秘書。お前は今どこに立っている?」
「えっと、路上です。」
「お前の今の位置を他人に伝えようとするならば、
緯度と経度、そして標高で表すことができる。
これは理解出来るな?」
「あ、はい。」
「加えて今現在という時間軸がそこにある。
もっともこれは、時に捕らわれた俺達では
時間を遡ることは出来ないから一方通行だけどな。」
「確かにそうですね。」
「この一方通行を場合によっては1つではなく
0.5の要素と考える人もいるんだが、
ここではとりあえず1つと考えておこう。」
「すると合計4つの要素ということですか?」
「とりあえず、今の緯度・経度・標高・時間を
それぞれ線で表すと考えてくれ。
その交差点に秘書、お前が立っている。」
「ええ。」
「そしてここからが少々難解なんだが、
それら4本線の交差点にはそれぞれ結び目が存在する。
と、このあたりまでは学校で習っただろ?」
「……初等学校でなんとなく聞いた覚えはあるんですが。」
「本当はこの結び目は幾重もの多様性を持っているんだが、
自分で魔導をゼロから開発する場合はともかく、
通常の解析の場合はそれらをひとくくりにして考えている。」
「なんで結び目なんです?」
「説明すると長くなるから、
今はとりあえず輪っかのようなものだと思ってくれ。
そう考えるのが教える側としては一番説明しやすい。」
「この結び目がそれぞれの線と線の間に
個別に存在していると思ってくれ。
それを加えると、世界を構成する要素の数は10以上に膨れあがる。」
「魔導ってのはその構成要素を通して作用させるものだ。
厳密には、理力と魔力のベクトル合成により振動させることで
物質に作用を働きかけているんだけどな。」
「だから魔導ってのは、電磁波や磁力とは相性が悪い。
こいつらも魔導と同じ結び目を通るから、
相互に干渉しやすくてな。」
「なるほど。」
「電磁波や磁力の乱れる場所……そうだな、例えば北方では、
それらを考慮して魔導を詠唱しなくちゃいけないから、
余計な手間がかかるってことだ。」
「結果的に同じように魔導を発動させようとしても、
威力が落ちたり導式が不完全だったりして
成功率が落ちるわけだ。」
「そんな仕組みがあったんですか……。」
「ま、発動時にそこまで意識しなくてもいいように
魔導詠唱ってのが存在しているんだけどな。
……ところで秘書、何か探していたんじゃないのか?」
「あ、そうだ。
コペルニクス副師団長知りません?
たぶん旗を手に持っていたと思うんですが……。」
「いや、見てないな。」
「そうですか……じゃあ、失礼します。」
「ああ、ちょっと待て。」
「はい?」
「お礼に実験台になるとかそういう心遣いは遠慮しなくていいんだぞ?」
「……いえ、謹んで遠慮させて頂きますっ!」
「……ちっ、また逃げられたか。」
★★