「ん?どうした、秘書。悩んだような顔して。」
「……いえ、前から少し疑問だったんですが、
青き肌のエンディルって、
元々は人間なんですよね?」
「らしいな。
奴らの言葉をそのまま借りれば、
『終末(エンデ)』を越えた者という意味らしいが。」
「じゃあ逆に、人間に戻るっていうことはあり得るんですか?」
「もしもエンディルが人間に戻ったら?
なかなか面白い質問だが……
どうしたんだ、突然?」
「いえ、ふとなんとなく。」
「うーむ……まず外見だ。
どうやらあの青い肌は魔力の影響による物らしいことから考えると、
その魔力とやらを抜いてやれば肌は白くなるだろうな。」
「なるほど。それで?」
「だが同時にあれほどの長寿を保つことができなくなってしまうわけだ。」
「え、どうしてです?」
「人間の場合、体内で常にありとあらゆる細胞を作り替えているわけだ。
それを新陳代謝といい、成長期には活発に、
そして年を取ると共に衰えていく。」
「だが魔力が体内を流れることにより新陳代謝が活性化、
常に魔力が入り込む直前の状態を保とうとするわけだ。
それによって奴らは人間より遙かに永い寿命を手に入れることが出来る。」
「なるほど。」
「その魔力が失われるということは、
その新陳代謝の機能が通常に戻ることを意味する。
つまり、魔力を体内に受け入れる直前の状態から成長を再開するわけだ。」
「そこから再び年を取っていくと言うことですね?」
「そうだ。
もう一つ気がかりなのは……記憶だ。
人間の前葉頭は、千年以上の見聞全てを記憶するほどの容量を備えていない。」
「じゃあどうやって?」
「外観から判断する限りでは脳が肥大化している様子もない。
恐らく、独自の生体アルゴリズムを生み出し
記憶を凝縮して保存しているのだろう。」
「凝縮?」
「本来で有れば同じ様な記憶をいちいち別々に記憶しているところを、
一括してまとめて記憶することができるようになっているのだろう。
そのほうが時系列の整理もしやすいし容量の無駄もない。」
「じゃあ、その記憶を持った状態で人間に戻ったら?」
「恐らくかなりの記憶が失われるんだろうな。
電気ショックの大きい深い記憶はきちんと記憶していても、
想起頻度の低い日常の浅い記憶は消えてしまうかもしれない。」
「だけど記憶ってのは、脳だけに記録されているものではない。」
「え、そうなんですか?」
「ああ。人間がその器に宿す理力体にも記録されている。」
「理力体に?どうやって?」
「記憶そのものが一種の文様を描いているというか、
染みこんでいるというか……現代の言葉で表現するのは難しいが、
そういうことだ。」
「文様……。」
「そいつ呼び出して生まれる以前の記憶を呼び起こしたいんだが
どうすればいいものか……。
俺が何年も取りかかっている難問だ。」
「何年も?どうしてそんなことしようとしてるんです?」
「……ちょっといろいろあってな。
通常なら脳への記録と同時に記録される理力体への記憶だけども、
理力体から脳に記憶を逆転写させればいいんだが……ぶつぶつ。」
「あーあ、
ぶつぶつ呟きながら行っちゃった。
……人の悩み聞いたはずなのに自分が悩んでるんじゃ?」
★★