「これはこれは。
丁度よいところでお会いできた。
秘書殿、カイザリア大使としての連絡事項があるでござる。」
「あ、はい。なんでしょう?」
「レミィティアーナ陛下の戴冠五周年式典でござるが、
我がカイザリア帝国からは拙者の他に、
パスカル幕僚長の出席が正式に決定したでござる。」
「パスカル幕僚長?」
「あ、ベル師団長。」
「よお。」
「歴史に名高い稀代の帝国軍参謀ユージン=パスカルを祖とし、
カイザリアの名門中の名門に連なる軍閥の一族でござる。
建国以来、国家の中枢を担っているでござるよ。」
「……へぇ、そんな奴いたんだ。
で。
誰なんだ、そいつ?」
「……グリフィス殿。
同じカイザリア出身として、いや、我が従兄弟とはいえ、
あまりの無知に拙者は悲しいでござる。」
「なんか名家って俺好きじゃないんだ。
名前が知られてるってだけで、
なんとなく威張ってる感じがしてさ。」
「否、否。グリフィス殿。それは違うでござるよ。」
「え?」
「名家とて、始めから名家だったわけではござらん。
幾代にも渡り、己が力で道を切り開き、
人々に認められたからこそ名家となり得たのでござる。」
「……あ、そっか。」
「なればこそ、その誇りを傷つけぬ為にも
人一倍以上の努力を必要とする。
その名声を維持するのも決して容易ではないのでござるよ。」
(なるほど……。)
「もっとも、己が始祖の成果を越えようとの努力もせず、
いつまでも七光りに甘んじる輩もいるのは確かでござるが……。
こほん。関係のない話でござったな。」
「それはそうと秘書殿。
カイザリア大使としての連絡事項、
拙者は確かに伝えたでござる。よろしいか?」
「かしこまりました。将軍に言付けておきます。」
「おー。まるでどこかの秘書って感じだな。」
「いえ、秘書なんですが、一応……。」
★★